「では、失礼いたします」
結衣はお茶を出すと、さっさと退室しようと頭を下げる。そのとき、「ちょっと待って、横溝さん」と浩斗に呼び留められた。
「はい」
「今夜、会食にいい和食のお店の予約を頼む。それと、同行をお願いできるかな」
さらっと言った浩斗の言葉に、結衣は驚いた。
(……え? 私も行くの⁉)
想定外の指示だ。困惑していると、少しだけむすっとした裕美が「ちょっと、浩斗──」と言いかける。
「そういうことで、よろしく。下がっていいよ」
それを遮るように、浩斗がまた口を開く。
さっさと出て行けと言いたげな雰囲気を感じ、結衣は「かしこまりました」と一言告げて社長室を出る。ドアを閉じる間際、不満そうな顔をしてこちらを見る裕美の姿が見えた。
結衣は、裕美と浩斗のためにサイバーメディエーションから二キロほど離れた場所にあるホテルの和食レストランの個室を予約した。成瀬に店の相談をしたところ、ここを勧められたのだ。
大きな窓からライトアップされた日本庭園が見える部屋に、浩斗と裕美は向かい合って座っていた。結衣は、浩斗の隣にちょこんと座る。
すぐに、和服姿の仲居さんが前菜を運んできた。目にも楽しい料理が、結衣たちの前に置かれた。
「浩斗と一緒に食事なんて、久しぶりね」
「そうですね」
にこにこする裕美に話しかけられた浩斗の返事には、どこか距離を置いた印象を受けた。
喋っているのはほとんど裕美で、浩斗は黙々と日本酒を飲んでいる。
「社長、次は──」
グラスがほぼ空になりかけているのに気付き、結衣はメニューを差し出そうとする。すると、それに気付いた裕美がさっと先にメニューを浩斗に差し出した。



