「うん?」
「いや、あんたも、その魔女とやらに願いを叶えてもらったことがあんのかなと思って」
「わたし?わたしはないよ。美しい声、綺麗な髪に、尾びれ。魔女が対価に求めるものはどれも一級品ばかりなんだよ」
わたしのいた海だとほとんどの人魚が魔女と契約したことがあった。
だけどわたしは歌も下手だし、髪も普通、おまけに尾びれの色はどピンクで海の中じゃ悪目立ち。
「代わりに差し出せるものがないから、彼女と取り引きしたことは一度もないの」
「それがいい」
シャッ、とカーテンが開いた。
近くにあったバスタオルを一枚とったアオさんは、後ろを向いたまま、雑な手つきで髪を拭きはじめる。
「取り引きっつーのはそう軽い気持ちでするもんじゃないからな。お前はバカで能天気だから教えといてやるけど」
「バカで能天気じゃないもん」
「悪い話じゃないって言われたときは大方悪い話だし、口約束も信用するな。うまい話には裏があると思え。……少なくとも、うちではそうだった」
うちでは?
アオさんのところにも魔女がいるのだろうか。
その口ぶりからして、アオさんも過去に取り引きしたことがあったんだろう。



