「……お兄ちゃん……?」
長すぎる無言が不気味で、恐る恐る呼びかける。
瞬間、ハッと我に返ったお兄ちゃんは、スッと立ち上がった。
「男のナリして“お兄ちゃん”とか、なんかキモ。
兄貴、もしくはお兄様と呼べ」
「いや、お兄様もおかしいでしょ」
ようやく解放された腰を摩りながら、ゆっくりと体を起こす。
ずっと無理に折り畳まれていたから、やっぱり鈍く痛い。
よたよたと立ち上がり、振り返ってお兄ちゃんを見ればいつもと変わらない飄々とした態度。
なんとなく沈んだ空気を感じた気がするけど、気のせいだったみたい。
遠くで、風呂場のドアが開閉された音がする。
お母さんの長湯がようやく終わったみたいだ。
「思ったよりピンピンしてたし、帰る」
言うなり、お兄ちゃんはさっさと支度を整え始める。
何でマイペース。こっちが慌ててしまう。
「お母さんに顔見せなくていいの?
そろそろお風呂から出てくると思うけど……」
「ババアの顔見たくないから帰んだよ」
表情ひとつ変えずバッサリ。
そうだよね。
なんでかこの人はお母さんを嫌ってるんだった。
“仲良くすればいいのに”
そんな気持ちが顔に出てしまっていたみたい。
しゅんとした私の頭に、コツンと硬いものが乗っかった。



