部屋の外のビーチベッドでうたた寝をしていた玲奈は、チャイムの音で目を覚ました。
辺りはオレンジ色に照らされていて、夕日が海に沈もうとしていた。
(修が帰ってきた)
玲奈は目をこすりながら慌てて部屋のドアを開ける。
「ハハ、寝てたでしょ」
Tシャツと短パンのラフな姿の修が笑顔で立っていた。
「ごめん、ウトウトしちゃって」
玲奈はハッと気づいて髪を整えた。幸い絶望的に乱れた感じにはなっていない。
修は荷物を置くとキッチンに向かい、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
「玲奈さんも飲む?」
「え?…うん、ありがとう」
修は玲奈にペットボトルを手渡すと、「二日ぶり」と言ってまた笑顔になった。
(ちょっと…何?…機嫌良すぎない?)
いつもの修は疲れ切った顔で帰ってきて、リンに出迎えられると脱力する、というパターンだ。
MVの撮影はそれほどハードではなかったのだろうか? それとも、現場が楽しかったのか?
「玲奈さん、こっち来て。夕日」
テラスに出た修は振り向いて玲奈を呼んだ。
オレンジ色のサンセットとバリ島の海をバックにした修は、一段と輝いて見えた。
(アイドルのオーラ、すごい…)
玲奈は思わずその場に立ちすくむ。
「ヤバいでしょ」
夕日に照らされる修の笑顔。
「ほんと、綺麗…」
玲奈は何故だか、この景色はずっと覚えてるだろうな、と思った。
「夕日が沈む瞬間まで見てようよ」
修の提案に、二人はパティオソファに並んで座った。
しばらく無言で夕日を見つめる。
日本での慌ただしい日常も、モヤモヤした気持ちも心配事も、沈む夕日が洗い流してくれるように感じた。
辺りが薄暗くなり、水平線にうっすらと光が見えるだけとなった。
二人は同時にお互いを見る。
玲奈の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「え?泣いてる?」
修は玲奈の顔を覗き込んだ。
修の整った顔が近くて、玲奈はドキリとした。
「ごめん。あまりに綺麗で、感動した」
玲奈が慌てて目を逸らすと、修も近すぎることに気づいて海の方を向く。
その瞬間二人の手が触れた。
お互いを見つめ合う。
玲奈は自分の鼓動が早くなるのが分かった。
部屋のブザーが鳴った。
二人は我に返る。
もう一度鳴った。
「誰だろ?土居さんかな?」
修は立ち上がって部屋に入り、ドアを開けた。
「イエーイ、プールで遊ぼうぜ」
そう言ってテンション高く入ってきたのはタクミだった。
手にはスワン型の浮き輪を持っている。
「はあ?なんで俺らの部屋のプールなんだよ」
修は浮き輪を怪訝そうに見る。
「みんな彼女さんと遊べるけど、俺だけ一人なんだよ。寂しすぎるじゃん」
タクミは部屋の中をずんずん進み、テラスに出てきた。
玲奈に向って「ども」と手を上げる。
そして、玲奈の隣に座り、こう言った。
「玲奈さんは俺のプロ彼女でもあるんだから、三人で遊んだっていいだろ」
玲奈はきょとんとした顔で修を見る。
修は小さくため息をついた。
「玲奈さんもおいでよ。せっかく浮き輪借りてきたんだから」
タクミはスワンに乗って浮きながら、パティオソファに大人しく座っている玲奈に声をかける。
「玲奈さん、タクミに無理に合わせなくていいよ」
修はプールサイドのサマーベッドに横たわったままだ。
「お前はまたそうやって、玲奈さんを独り占めしようとする」
タクミの言葉に修は慌てて立ち上がったが、「別にそういう意味じゃ…」と口調は小さくなる。
そんな修にタクミが手ですくった水をかけた。
「はい、修も濡れたー」
「俺、海パン履いてないんだけど」
思いのほか水がかかったようで、修は全身びしょ濡れだ。
「だから、お前も着替えて来いよ」
タクミは小さな水鉄砲でまた水をかけた。どうやら隠し持っていたらしい。
「水鉄砲まで持ってたのかよ。……着替えてくる…」
修はタオルで体を拭きながら部屋に入っていった。
「…修、部屋に帰っちゃったのかな…」
玲奈は部屋の方を見ながら心配そうな顔をする。
「まあ、気が向いたら来るんじゃないかな。それより、これで対決しようよ」
タクミはニヤリとしながら、二つ目の水鉄砲を玲奈に渡した。
「は?」
海パンに着替えた修は、お互いずぶ濡れになったタクミと玲奈を交互に見た。
プールサイドもびしょびしょだ。
「修が来たよ、玲奈さん」
タクミの合図に、修に向って二つの水鉄砲から一斉に水がかけられる。
「おわっ」
修はプールに飛び込み、スワン浮き輪を楯にして水を避けた。
「二人とも飛び道具はズルいって」
修はスワンを楯に水鉄砲攻撃を避けるのに必死だ。
しかも玲奈が持っている水鉄砲にはタンクが付いていて、連射が可能だ。
タクミも玲奈もプールに入り、徐々に修を追い込んでいく。
「玲奈さん、それ、貸して」
泳いで近づいてきた修が、あっという間に玲奈の水鉄砲を奪い取った。
修は玲奈の前にスワンで楯を作り、横にピッタリくっついてくる。
「俺が攻撃するから、玲奈さんは防御ね」
玲奈は思わず吹き出す。
こんな子供のように楽し気な表情の修を見るのは初めてだった。
素の二十二歳の男の子だった。
タクミは「勝手にチーム作るなよ」と言いながら、素手と水鉄砲の両方で水をかけてくる。
タクミの素手からの水がスワンの楯を飛び越え、玲奈と修は二人で頭からずぶ濡れになった。
「あはは」
玲奈は修を見て大声で笑い、修も玲奈を見て笑った。
「はー、あっという間だったねぇ」
瑠加は隣の席で小さくあくびをした。
プロ彼女(本彼女)達は二泊三日のバリ島滞在を終え、飛行機に乗り込んだ。
Grand-Blueメンバーとスタッフは夜の便で帰ることになっている。
「瑠加ちゃん、マナティとゆっくり過ごせた?」
瑠加は「まあね」と言って「玲奈さんこそ」と、玲奈の顔を覗き込んだ。
「部屋のプールではしゃいでた声、聞こえてたよ」
「マジで?」
タクミと三人で水鉄砲遊びをしていた時だ。
次の日の夜もタクミは部屋にやってきて、ルームサービスを注文して食べ、ゲームをしているうちに三人とも寝落ちしてしまい、気づくと朝になっていた。
「修とのラブラブはタクミくんに邪魔されたわけだ。なんか、アオハルしてるねー」
「アオハルって」
玲奈は反論しかけたものの、プールで遊んだこともゲームしたことも、学生時代に戻ったような久しぶりの感覚で楽しかった。
何より修とタクミが心の底から楽しんでるように見えた。
「十代の頃の二人はこんな感じだったのかなって、想像してた」
修の色々な表情を見ることもできた。
「はぁ、楽しかった」
玲奈はそう言って隣を見ると、瑠加の視線は飛行機の窓の外の青い海に向いていた。
辺りはオレンジ色に照らされていて、夕日が海に沈もうとしていた。
(修が帰ってきた)
玲奈は目をこすりながら慌てて部屋のドアを開ける。
「ハハ、寝てたでしょ」
Tシャツと短パンのラフな姿の修が笑顔で立っていた。
「ごめん、ウトウトしちゃって」
玲奈はハッと気づいて髪を整えた。幸い絶望的に乱れた感じにはなっていない。
修は荷物を置くとキッチンに向かい、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
「玲奈さんも飲む?」
「え?…うん、ありがとう」
修は玲奈にペットボトルを手渡すと、「二日ぶり」と言ってまた笑顔になった。
(ちょっと…何?…機嫌良すぎない?)
いつもの修は疲れ切った顔で帰ってきて、リンに出迎えられると脱力する、というパターンだ。
MVの撮影はそれほどハードではなかったのだろうか? それとも、現場が楽しかったのか?
「玲奈さん、こっち来て。夕日」
テラスに出た修は振り向いて玲奈を呼んだ。
オレンジ色のサンセットとバリ島の海をバックにした修は、一段と輝いて見えた。
(アイドルのオーラ、すごい…)
玲奈は思わずその場に立ちすくむ。
「ヤバいでしょ」
夕日に照らされる修の笑顔。
「ほんと、綺麗…」
玲奈は何故だか、この景色はずっと覚えてるだろうな、と思った。
「夕日が沈む瞬間まで見てようよ」
修の提案に、二人はパティオソファに並んで座った。
しばらく無言で夕日を見つめる。
日本での慌ただしい日常も、モヤモヤした気持ちも心配事も、沈む夕日が洗い流してくれるように感じた。
辺りが薄暗くなり、水平線にうっすらと光が見えるだけとなった。
二人は同時にお互いを見る。
玲奈の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「え?泣いてる?」
修は玲奈の顔を覗き込んだ。
修の整った顔が近くて、玲奈はドキリとした。
「ごめん。あまりに綺麗で、感動した」
玲奈が慌てて目を逸らすと、修も近すぎることに気づいて海の方を向く。
その瞬間二人の手が触れた。
お互いを見つめ合う。
玲奈は自分の鼓動が早くなるのが分かった。
部屋のブザーが鳴った。
二人は我に返る。
もう一度鳴った。
「誰だろ?土居さんかな?」
修は立ち上がって部屋に入り、ドアを開けた。
「イエーイ、プールで遊ぼうぜ」
そう言ってテンション高く入ってきたのはタクミだった。
手にはスワン型の浮き輪を持っている。
「はあ?なんで俺らの部屋のプールなんだよ」
修は浮き輪を怪訝そうに見る。
「みんな彼女さんと遊べるけど、俺だけ一人なんだよ。寂しすぎるじゃん」
タクミは部屋の中をずんずん進み、テラスに出てきた。
玲奈に向って「ども」と手を上げる。
そして、玲奈の隣に座り、こう言った。
「玲奈さんは俺のプロ彼女でもあるんだから、三人で遊んだっていいだろ」
玲奈はきょとんとした顔で修を見る。
修は小さくため息をついた。
「玲奈さんもおいでよ。せっかく浮き輪借りてきたんだから」
タクミはスワンに乗って浮きながら、パティオソファに大人しく座っている玲奈に声をかける。
「玲奈さん、タクミに無理に合わせなくていいよ」
修はプールサイドのサマーベッドに横たわったままだ。
「お前はまたそうやって、玲奈さんを独り占めしようとする」
タクミの言葉に修は慌てて立ち上がったが、「別にそういう意味じゃ…」と口調は小さくなる。
そんな修にタクミが手ですくった水をかけた。
「はい、修も濡れたー」
「俺、海パン履いてないんだけど」
思いのほか水がかかったようで、修は全身びしょ濡れだ。
「だから、お前も着替えて来いよ」
タクミは小さな水鉄砲でまた水をかけた。どうやら隠し持っていたらしい。
「水鉄砲まで持ってたのかよ。……着替えてくる…」
修はタオルで体を拭きながら部屋に入っていった。
「…修、部屋に帰っちゃったのかな…」
玲奈は部屋の方を見ながら心配そうな顔をする。
「まあ、気が向いたら来るんじゃないかな。それより、これで対決しようよ」
タクミはニヤリとしながら、二つ目の水鉄砲を玲奈に渡した。
「は?」
海パンに着替えた修は、お互いずぶ濡れになったタクミと玲奈を交互に見た。
プールサイドもびしょびしょだ。
「修が来たよ、玲奈さん」
タクミの合図に、修に向って二つの水鉄砲から一斉に水がかけられる。
「おわっ」
修はプールに飛び込み、スワン浮き輪を楯にして水を避けた。
「二人とも飛び道具はズルいって」
修はスワンを楯に水鉄砲攻撃を避けるのに必死だ。
しかも玲奈が持っている水鉄砲にはタンクが付いていて、連射が可能だ。
タクミも玲奈もプールに入り、徐々に修を追い込んでいく。
「玲奈さん、それ、貸して」
泳いで近づいてきた修が、あっという間に玲奈の水鉄砲を奪い取った。
修は玲奈の前にスワンで楯を作り、横にピッタリくっついてくる。
「俺が攻撃するから、玲奈さんは防御ね」
玲奈は思わず吹き出す。
こんな子供のように楽し気な表情の修を見るのは初めてだった。
素の二十二歳の男の子だった。
タクミは「勝手にチーム作るなよ」と言いながら、素手と水鉄砲の両方で水をかけてくる。
タクミの素手からの水がスワンの楯を飛び越え、玲奈と修は二人で頭からずぶ濡れになった。
「あはは」
玲奈は修を見て大声で笑い、修も玲奈を見て笑った。
「はー、あっという間だったねぇ」
瑠加は隣の席で小さくあくびをした。
プロ彼女(本彼女)達は二泊三日のバリ島滞在を終え、飛行機に乗り込んだ。
Grand-Blueメンバーとスタッフは夜の便で帰ることになっている。
「瑠加ちゃん、マナティとゆっくり過ごせた?」
瑠加は「まあね」と言って「玲奈さんこそ」と、玲奈の顔を覗き込んだ。
「部屋のプールではしゃいでた声、聞こえてたよ」
「マジで?」
タクミと三人で水鉄砲遊びをしていた時だ。
次の日の夜もタクミは部屋にやってきて、ルームサービスを注文して食べ、ゲームをしているうちに三人とも寝落ちしてしまい、気づくと朝になっていた。
「修とのラブラブはタクミくんに邪魔されたわけだ。なんか、アオハルしてるねー」
「アオハルって」
玲奈は反論しかけたものの、プールで遊んだこともゲームしたことも、学生時代に戻ったような久しぶりの感覚で楽しかった。
何より修とタクミが心の底から楽しんでるように見えた。
「十代の頃の二人はこんな感じだったのかなって、想像してた」
修の色々な表情を見ることもできた。
「はぁ、楽しかった」
玲奈はそう言って隣を見ると、瑠加の視線は飛行機の窓の外の青い海に向いていた。

