私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

 
「ヴィオラ!」
 
 すぐに振り返ったアレクシス殿下は、恐ろしい顔をしていた。恐怖と、怒りと、悲しみの混じった表情。
 
 転がるように私に駆け寄り、ひざまずいて怪我の具合を調べる。
 
「ああ、ヴィオラ……怪我を……」
 
 鬼の形相で、アレクシス殿下が私の怪我の程度を確認する。大事には至らなかったのを見て、やっと少し表情が緩んだ。
 
「大事にならなくて、よかった……」
 
 ほとんど絞り出したような微かな声でそう言うと、アレクシス殿下は、私を包むように抱きしめた。
 
「お……お召し物が、汚れます……」
 
「そんなこと、どうでもいい」
 
 どっと流れ込んでくる安堵と、同時に湧き上がるときめき。次第に高鳴る心臓の鼓動を感じながら、私はこの後に及んでも気持ちをごまかした。
 
 本当は、殿下の着ているものの心配なんてしていない。こうして抱き締められて、身を案じられて、震えるほど嬉しいのに。
 
「ああ、でも……傷が。可愛い顔に、なんてことを……」
 
 アレクシス殿下は一旦体を離し、私の顔を大切そうに見下ろした。私は、自分の頬に触れてみる。
 
「大丈夫ですよ。大した怪我ではありません」
 
 かすり傷と、火傷を負ったようだ。頬に触れた指先に、ほんの少し血がついた程度だった。
 
「ちょっと……殿下、なぜあなたが泣きそうなんですか」
 
 まるで、宝物を壊されてしまったような悲痛な顔をしている。再び、ぎゅっと抱き締められた。
 
「……命に別状がなくて、良かった……」
 
 噛み締めるように言う殿下の声は、頼りないほどに優しい。私の乱れた髪を何度も撫で、力の抜けた体をずっと支えるように抱いてくれた。
 
「……ありがとうございます。思いとどまってくれて」
 
 あのまま止めずにいたらきっと、殿下は襲撃者を殺してしまっていただろう。