私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

 
 静かな声は、限りなく優しく甘い。アレクシス殿下は夢見るように、あの日のことを思い出しているようだった。
 
「あの日あなたは、私に花束をくださいました。あれは殿下、あなたが自らお作りになったのですね」
 
 華美というよりは、控えめで美しい花々が束ねられていた。庭師か花売りが、王太子の女遊びのために作らされているのだと思っていた、あれは。
 
 アレクシス殿下は、黙って頷いた。晴れやかな、清らかな微笑みを浮かべて。
 
 またしても、殿下の仮面が剥がれていく。女好きだなんて言われているのが、不思議なくらいだ。美しい花を愛でるような、繊細な感受性の持ち主だというのに。
 
 ざあっと、涼しい風が通り抜けた。
 
 沈黙が流れる。私たちは草の上に横たわったまま、しばらく見つめ合っていた。ちょうど昼どきの、眠ってしまいそうな心地よい光の中。

「ブローチ、着けていてくれてるんだな」
 
 ぽつんと、アレクシス殿下が呟いた。その声に密かな熱がこもっているのに気づいて、私は何も言えなくなってしまう。
 
「……宝物ですから。私の」
 
 あの冬の日——あまりにも色々なことがあったあの日に、アレクシス殿下が送ってくれた青い魔石のブローチ。
 
 これが私の苦い恋の思い出になるのだろうと、肌身離さず身につけてきた。
 
 これから誰と結ばれることがなくても、他の男性を好きになることがなくても、アレクシス殿下が王となったあとも。
 
 たったひとつ。アレクシス殿下が贈ってくれたこのブローチを思い出と共に抱いて、生きていこうと思ったのだ。