「私……私としても、ここで殿下とふたりきりでいるのが知られると、困ったことになりますし」
ああ——私はこの人に、どれだけ嘘を重ねるのだろう。もうこの唇が、何度嘘をついたか分からない。
皮肉なことに、困ったことになるのは本当だった。
もうすぐ婚約しなければならない王太子殿下と、女の身で二人きりでいるわけにはいかない。
私は一歩下がって、震える脚で淑女の礼をなんとかこなした。アレクシス殿下の顔は、見ないようにして。
「さようなら、王太子殿下」
そう呟くと同時に、私は——叫び出しそうな自分の心に、蓋をした。これ以上、熱くなってしまう前に。抑えられなくなる前に。
くるりと踵を返し、逃げるようにバルコニーをあとにする。足早にその場を去ってからは、文字通り廊下をひた走った。
さようなら、アレクシス殿下。さようなら。
どうかもう、これ以上私を見ないで。お願いだから、もう二度と私の手を取らないで。
追いつかれてしまったら。あれ以上、あの方の気持ちを聴いてしまったら。私はもう——自分の心を、抑えられなくなる。
ドレス姿のまま廊下を走ったものだから、顔が熱くてたまらない。息も激しく荒れて、涙に濡れて、誰にも見せられないみっともない姿になってしまった。
鋭く痛む胸を、ぎゅっと抑える。手のひらの中で、青い魔石が冷たくキラリと光った。

