私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 それでも。やっぱり私には、似合わないんじゃないか。貴族の令嬢として着飾るのは、あまりに不釣り合いなんじゃないか。
 
 そんな不安が、むくむくと頭をもたげてくる。
 
「綺麗だ。本当に」
 
 そんなザワザワした気持ちは、アレクシス殿下の一言で吹き飛んでしまった。
 
「なんて美しいんだろう。お姫さまそのものだ」
 
 私の顔をじっと見て、アレクシス殿下はしみじみと呟く。私を真正面から見詰めるその顔を、まともに見られない。
 
 美しいだなんて。お姫さまだなんて。頬に赤みが差していくのが分かる。降り注ぐ甘い言葉に、声に、溺れてしまいそうだ。
 
「ヴィオラ、お前を可愛い可愛いと思っていたが、美人だったんだな。可愛いから気がつかなかった」
 
「なんですか、それ」
 
 間の抜けた——あえてハッキリ言わせてもらう!——言い方に、思わず吹き出してしまう。
 
「し、仕方ないだろ! 褒め慣れてないんだ」
 
 アレクシス殿下は顔を赤くして、言い訳がましく言った。
 
 むくれたような、慌てたような言い方に、ますますおかしくなる。あまりに素直で、率直で、飾らない言葉だったからだ。
 
「ふふ、嘘ばっかり。四六時中、女性に褒め言葉を言いまくってるくせに」
 
「本心で褒めるのには、慣れてない」
 
 またも、私を惑わせることをさらりと言ってのける。その目は困ったように揺れていて、そのくせ、私をずっと宝物のように眺めている。
 
「その……ああ、どう褒めたらいいかわからない。赤いドレスは、ヴィオラによく似合っているな。髪の色も素敵だ」
 
「……そんなこと、言われても……私は、他の令嬢のように、可愛らしく喜んだりしません」
 
 息を吐くように、嘘が出てくる。この頬は熱く血が昇っているのに、この胸は早鐘を打っているのに。
 
 ときめいてはいけない、惹かれてはいけない。その理性が、感情を抑え込もうとしている。
 
「いい。ヴィオラは、そのままで可愛い。可愛くて可愛くて……抱きしめたくなる」
 
 ずるい。いつもは、息を吐くように上手いこと女性を褒めるくせに。今は私を前にして、考え込みながら、たどたどしく言葉を紡いでいる。
 
 ほんとうに、ずるい。こんな不器用な姿を見せられてしまったら。私を前にして、一所懸命気持ちを語るのを聞いてしまったら。
 
 今すぐに、その腕の中に、飛び込みたくなってしまう。