大広間を出て、堂々と歩くアレクシス殿下のあとを着いていく。舞踏会の最中に用事だなんて、いったいなにが起こったのだろう。
しばらく歩いて連れて行かれたのは、小さなバルコニーだった。テーブルとガーデンチェアがあり、普段から使われている形跡がある。
「……用事って」
「そんなものはない」
なぜか、少しぶっきらぼうな口調でアレクシス殿下は言った。高価そうなコートを脱いでチェアの背もたれにかけ、きちんと整えてあった髪に手を差し入れて崩す。
胸が、きゅんとした。用事があるわけではない。なのに殿下は、私を連れてこんなところで二人きりになろうとしてくれたのだ。
「はあ。ちょっといただけなのに、まったく疲れるな。舞踏会ってやつは。なあ、座ったらどうだ?」
背もたれに身を預けて、殿下は溜め息混じりに言う。口調は、ずっと和やかになっていた。私は、慌てて言葉を返す。
「で、殿下。あなたは主役のはずです。こんなところで、私なんかと話していていいのですか?」
頬が緩んでしまうのを、必死でこらえた。この美しい春の夜に、二人きりでいられて嬉しいだなんて。とても言えない本音を隠そうとして、つい自虐的な言い方になる。
「いい。お前と話していたいんだ」
迷いなく答える殿下の顔を見たら、何も言えなくなってしまった。
「最低限の役目は果たした。最初のダンスは終えて、セリーヌ嬢に恥をかかせることなく抜けてきた。褒めて欲しいくらいだよ」
アレクシス殿下が、ゆったりと長い手足を伸ばす。セリーヌ嬢に好感は持っていても、やはり舞踏会そのものが性に合わないらしい。
「こんなところ、誰かに見つかったら……」
「大丈夫だ。人払いをしてある」
そんなことより、と、アレクシス殿下は立ち上がって私の方にずいと歩み寄った。何を言われるのかと、身を堅くしてしまう。
「さっき、誰と踊るつもりだったんだ?」

