私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 舞踏会の会場を歩きながら、最低限の時間を潰す。もう帰ってしまいたいが、即座に退室しては見咎められるかもしれない。
 
 誰かに用事があるような振りをして、少しずつ出口の方へ向かった。何人もの貴公子が声をかけようとしたようだが、曖昧にいなして立ち去る。
 
 が、それも限界があった。
 
「ヴィオラ嬢! どうか、僕と一曲踊ってください」
 
「いや、ぜひ私と……」
 
「いやいや俺と!」
 
 これまで断ってきた方々も含めて、何人かの貴公子たちがワラワラと群がってくる。
 
 気持ちはありがたいが、居心地は悪い。みな、獲物を狙うようなギラギラした目で私を見ている。
 
 いくつもの目線が、私の顔や肌やドレスの上を這い回るのを感じた。
 
「ヴィオラ様、私と踊っていただけますよね?」
 
「どうか、俺をお相手に選んでください」
 
「いえ、僕こそをお相手に!」
 
 特に熱心な数名の貴公子が、完全に私の前に立ち塞がる。私は彼らをぼんやりと眺めて、それぞれに曖昧に微笑みかけた。
 
 どの人も、熱心に私を誘ってくれる。真の思惑までは分からないが、おそらくそろそろ結婚をと考えている方々なのだろう。
 
 今夜くらい、貴公子たちのダンスのお相手に徹してもいいかもしれない。
 
 さっき見たアレクシス殿下とセリーヌ嬢のお姿を脳裏から振り払おうとしながら、私はぼんやりと考えた。
 
 むろん、彼らの中から誰かを選んで結婚しようと思うわけではない。私は騎士として生きる。それは揺らがない。
 
 しかし——ほんの一夜、夢を見てもいいのかもしれない。誰かの妻になり、誰かの家に入り、母になり、平凡だが慎ましい幸せを手に入れる夢。
 
 夢を見るだけだ。浅い、一夜で覚める夢。ほんのひととき、自分の心の揺らぎを見なかったことにするために。
 
 貴公子たちは、期待に満ちた眼差しで私の返事を待っている。それでは、最初にお声をくださったあなたと……と言いかけた、その瞬間。
 
 私の目の前に、大きな影が割り込んできた。見慣れない豪奢なコートの背中から、慣れ親しんだ気配がした。
 
「取り込み中すまないね。少し、彼女に用があるんだ」
 
 心臓が跳ねるようだった。アレクシス殿下その人が、私を守るように立ち塞がっていた。
 
 貴公子たちにかけた言葉は、あくまで穏やかで優しい。しかし彼らは、飛び上がって道をゆずった。
 
 なんやかやと言いながら散っていく貴公子たちを尻目に、アレクシス殿下は私の方を振り返る。
 
「お前に用事がある。来てくれ」
 
 ひどくぶっきらぼうで、拗ねたような顔をしている。その子供のような表情と、立派に着飾った装いはあまりにも不釣り合いだった。