私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 アレクシス殿下は、ひときわ立派だった。豪華なゴールドの刺繍が施された、ロイヤルブルーのロングコート。いつも無造作に跳ねている黒髪は、綺麗に撫でつけられていた。
 
 エスコートされてきたセリーヌ嬢は、舞い降りた春の妖精のようだった。蜜を思わせる金髪は可憐に結われ、たっぷりとした薄桃色のドレスがあまりにも似合っている。
 
 楽団が、優雅な音楽を奏で始める。ゆっくりと手を取り合い、踊り始めるお二人の姿がシャンデリアの光を浴びていた。
 
 アレクシス殿下は、華奢で小柄なセリーヌ嬢を前にするとひときわ大柄に見えた。いつものように、優しい視線を彼女に注いでいる。
 
 あの赤い瞳が、セリーヌ嬢の可愛らしい姿を見つめている——その光景を直視出来ずに、思わず目を背けた。
 
 ちくちくと、変な痛みが胸を蝕んでいく。感じたくない。認めたくない。あの手を、目線を、私のこの姿だけに向けて欲しいと、強く思ってしまう。
 
 目を逸らして、頭の中でくっきりと思い描いてみる。アレクシス殿下が私の手を取り、私だけをまっすぐに見つめて、皆の前で踊る様子を——
 
 ダメだ。そんなことは、許されない。
 
 初めから、そんなことは望んではいけないのだ。アレクシス殿下は、ここグラディア王国の王太子。然るべきお相手と、結ばれる運命にあるのだから。
 
 まだぐらぐらと揺れ動く心を抑えつけながら、私はお二人の姿に目線を戻した。
 
 広間の中央で、感嘆を浴びながら踊るお二人。私は黙って、その姿を見届けた。ずいぶん、遠くにいるように感じる。
 
 私は急に、自分の姿が恥ずかしくなった。当たり前だった長く赤い髪が、田舎めいて感じる。手入れの追いつかないほど風雨に晒される肌も、着慣れないドレスも。
 
 セリーヌ嬢は、どこからどう見ても完璧な令嬢だ。美しくて、お優しくて。私だって、彼女が大好きだ。
 
 アレクシス殿下と結ばれるのは、まったくセリーヌ嬢のような方が相応しい。まるで、王太子妃になるべくして生まれたような方だ。
 
 なのに——なのにどうして、こんなに胸が痛いのだろう。
 
 お二人の最初のダンスが終わり、広間が喝采に包まれる。私は顔を上げることも出来ずに、逃げるように背を向けた。