私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 威勢は良いが、顔が真っ赤だ。この人、女たらしと名高いんじゃなかったっけ?
 
 いや、それは、ただのウワサだった。王侯貴族たちが望むから、殿下は女好きのように振る舞っていただけ。
 
 私は、そんなことまで知ってしまった。
 
 急に、今日一緒に過ごしたときのまだ新しい思い出が、どっと甦ってきた。
 
 雑貨店で聴いた殿下の過去。宝飾店での贈り物。帰りの馬車で交わした熱。あのままこの胸に抱かれたままでいたいと思ったひととき——
 
「いや、その、お前が女の子なんだと思ったら……えっと、まずいな。緊張してきた」
 
 おかしいやら、恥ずかしいやら、後ろめたいやらで、私はとうとう何も言えなくなる。
 
 変な殿下。自分からノコノコと私の部屋に来たくせに、勝手に意識して勝手に照れている。女性と二人きりになる機会なんて、いくらもあっただろうに。
 
「そ、それで……! な、なにかご用ですか?」
 
 いつもの調子に戻りたくて、意味のない質問を投げかける。ついさっき、顔を見に来ただけだと聞いたばかりなのに。
 
「い、いや……今日は大変だったな。ありがとう」
 
 まっすぐな言葉を返されて、少し熱が引いていく。そうだ。私も、殿下にはお礼を言いたい。
 
「いえ。殿下こそ、災難でしたよね。とても良い一日だったのに、あんなことになってしまって……」
 
 馬車の中で感じた温もりと幸福感が、一瞬にして壊されたあの瞬間。怖かった。殿下をお慕いすることを、咎められているような。