私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 安楽椅子の上でうとうとしていると、不意にノックの音が私の眠りを破った。気がついたら、私の身には毛布が掛けられている。
 
 ハッとして辺りを見渡すと、マリエルはもういない。作業が終わり、眠っている私を見てそっと帰って行ったのだろう。
 
 再度、控えめなノックの音が響いた。慌てて立ち上がり、ドアを開ける。
 
「アレクシス殿下……!」
 
「具合はどうだ? 落ち込んでないか?」
 
「いえ。殿下の方こそ」
 
 急いで部屋の中に招き入れ、ほっと息をついた。こんなときなのに、殿下と二人になれて嬉しく思う自分がいる。
 
「さっきは、すまなかった。上手くかばってやれなくて……」
 
「いえ。十分かばってくださったでしょう。嬉しかったです」
 
 向かい合って、しばらくの間見つめ合う。
 
 アレクシス殿下は、初めて見る表情で私の顔を見つめていた。まるで——運命の人に巡り合ったような、大切な人を見つけたような。
 
 こんな顔で見つめられると、どうしていいか分からなくなる。密かに、胸の鼓動が高鳴っていった。
 
「少し、顔を見にきた。その……せっかく隣の部屋に来たのだから」
 
「へえ。私の部屋を見たんだから、殿下の部屋も覗きますよ」
 
 軽く冗談を言うと、アレクシス殿下はびっくりしたようにピタリと固まった。困ったように頭を掻きやって、なぜかしどろもどろに言う。
 
「ええっ? 来るのか? オレの部屋に? 散らかってるんだが……」
 
 みるみるうちに、顔が赤くなっていく。どうしたどうした。殿下の部屋になら、前も入ったことがあるだろうに。別に、そんなに恥ずかしがるほど散らかってはいなかった。
 
「冗談ですよ。というか、私が行ったらまずいでしょ!」
 
 けらけら笑って返しながらも、急に今の状況を自覚した。
 
 アレクシス殿下が、私の自室にいる。もちろん二人きりで、誰にも知られずに。
 
「ま……まあ、まずいとまでは、言えないんじゃないか……?」
 
 妙に歯切れが悪く、照れたように曖昧に言葉を濁している。頬を赤らめて、困ったように目を合わせてくれない。
 
「ちょ、ちょっと。なに、照れてるんですか」
 
 からかったつもりで、墓穴を掘った。もだもだと両手をいじくりながら殿下の顔を見上げて、ドキンと心臓が跳ねた。
 
「照れてな……いや、照れてるけど! 仕方ないだろ!」