私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


「は、はあ……」
 
 な、なるほど。それはすごい。とはいえ、穴って。誰かがハマって怪我したことはないのだろうか。
 
「これ、どうして修繕しないのですか?」
 
 言ってから、しまったと口を閉じた。宰相が、目玉をひん剥く。
 
「ふっ、不敬な! 幼き王太子殿下が、またとない才能を示した記念碑であるぞ!」
 
「それは……たいへん失礼いたしました」
 
 慌てて頭を下げる。思ったことをすぐに口にしてしまうのが、自分の悪い癖なのは分かっていた。
 
 なるほどやはり、王太子の実力を象徴するオブジェとしての意味合いが大きいらしい。
 
 怒り心頭の宰相を、王太子殿下はうるさそうに制した。
 
「よい、よい。キミが、わたしのことをもっと知ってくれるのが楽しみだ」
 
 相変わらず、歯の浮くようなセリフだ。気まずい思いで、彼の美しい面差しを眺める。
 
「これからキミには、王属騎士団の団長として働いてもらうわけだが……」
 
 深く優しい声で、王太子がなおも口説くように言う。
 
「仕事のことなど、後日ゆっくり調整すればよい。今日はこのあと、わたしとのデートに付き合ってもらおう」
 
 私の腕には、華やかな香りをまとう大きな花束が残された。
 
 ……大丈夫かな、この仕事。
 
 王城に赴任して早々、なんだか面倒な人のもとで働くことになってしまったかもしれない。
 
 彫りが深く端正な顔立ちの微笑みを浴びせられながら、私はしっかりしなければと背筋を伸ばした。