私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


「まったく、男の子の部屋みたいね。これで全部かしら?」
 
 部屋の引っ越しを手伝いにきてくれたマリエルが、台車の上に最後の荷物を積み込む。
 
 服と、本と、日用品と、あとはたくさんの装備品。城で与えられたこの部屋に置いた私物は、そこまで多くなかった。
 
 我がブライアント家の使用人だったマリエルとは姉妹同然に育ったが、こうして部屋の片付けを手伝ってもらうのは何年ぶりだろう。
 
 炊事場での仕事を早く切り上げて、私のもとに来てくれたらしい。初めて城に来て以来、ゆっくり会うのは久しぶりだ。
 
「それにしても、今日は大変だったわね。怪我がなくてなによりだったけど」
 
 襲撃事件の一部始終は、かなりぼかして伝えた。王太子殿下に危害を加えようとしている者がいるとなると、マリエルは護衛である私の身を心配するだろう。
 
 荷物をまとめ終わるやいなや、マリエルは持参した箒でテキパキと掃除を始めた。
 
「ありがとう。少し、疲れてしまって……申し訳ないけど、掃除は任せていいかな」
 
「もちろんよ。座ってなさいな」
 
 くるくるとよく働くマリエルを前に休むのは悪いと思うのだが、彼女の前では力が抜けてしまう。
 
 長いため息をついて、安楽椅子に身を沈めた。もう、立ち上がるのも嫌になるほど体が重い。張り詰めていた緊張が、緩んだようだ。
 
「とにかく、ヴィオラの顔が見られて嬉しいわ。また働き詰めなんでしょう? 無理はしないでって言ったのに」
 
 お小言のようなマリエルの口ぶりに、ふっと笑ってしまう。
 
「これからは、王太子さまの私室の近くで暮らすんでしょ。ほんとうに、ヴィオラを見初めたんじゃないかしら」
 
「なっ、ま、まさか。そんなはずはないっ」
 
 思わず、飛び上がりそうになる。アレクシス殿下が、私を見初めるなど。そんなことはありえないし、あってはならないはずだ。
 
「そう? 軍事国家の王子さまが、伯爵家の女騎士を見初める。なんて、いかにもありそうじゃない」
 
「い、い、いや……ない。絶対にない。アレクシス殿下が、私になど……」
 
 一瞬で、馬車の中でのあのひとときが脳裏に蘇ってくる。殿下の手の温もり、間近に見るお顔のひたむきさ、言葉のひとつひとつに込められた想い。
 
 顔が熱くなっていく。私ったら、なにかをねだるように殿下のお顔をじっと見詰めて——