私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 一時間後。私は、バタバタと私室を片付けていた。少し気が抜くと、ついつい今日の出来事で頭がいっぱいになってしまう。
 
 今から私は、部屋の引っ越しをする。アレクシス殿下の、私室の隣に。
 
「私室近くで護衛についてもらう」と、殿下は言っていたが——それは、私の部屋を近くに移せ、との命令だったのだ。
 
 気丈に振る舞っておられたが、内心は不安になっていないだろうか。なにしろ、襲撃されたのだ。
 
 犯人に殿下を傷つける意思は見られなかったとはいえ、真意は分からない。
 
 引っ越すのは、殿下の身辺警備を固めるため。当然、近頃よくお供している私がそばにいるのが望ましいだろう。
 
 決して、それ以上の意味はないはずだ——と、必死に自分へ言い聞かせながら、クローゼットの中身を乱雑にまとめる。
 
 そのとき、部屋のドアを控えめにノックする音が聞こえた。
 
「ヴィオラさま。突然押し掛けて、ごめんなさい。どうしても、ちょっとお会いしたくて」
 
「セリーヌ嬢! どうなさったのですか?」
 
 淡いベージュの上品なドレスを着たセリーヌ嬢が、心配そうな面持ちで立っていた。
 
 今日は城でのサロンもないのに、エルディシア公爵家令嬢がどうしていらしたのだろう。
 
「さきほど、アレクシス殿下のお見舞いに参ったのですが……他に襲われた方はいらっしゃるのかお聞きしたら、ヴィオラさまも一緒にいらしたと」
 
「それは、わざわざありがとうございます。この通り、私も怪我ひとつありませんでしたよ」
 
 笑いかけると、セリーヌ嬢はほっと息をついて胸を撫で下ろした。愛らしい顔が、ふにゃりと緩む。
 
「ああ、よかった! 本当によかったですわ。これ、ささやかなものですけど」
 
 セリーヌ嬢が手渡してくれたのは、ハーブティーの小さな包みだった。包装紙越しにも、良い香りがする。
 
「安眠を助けるお茶ですの。今夜は、ゆっくりおやすみになってね」
 
「これは……どうも、ありがとうございます。お優しいんですね」