私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


〝力の萌芽〟とかいう、バカバカしい名前で呼ばれているあの穴。あれは、ちょっとした名所になっている。
 
 城に来る来賓たちは、みな大袈裟にありがたがって誉めそやすのだ。アレクシス殿下の、幼い頃から卓越した魔力と力の象徴なのだと。
 
「あれは……オレが八つのときに、暴れて出来たものだ」
 
 八つのとき。殿下が、大切にしていた裁縫箱を焼き払われてしまった日なのだろう。やはり、と、私の中ですぐに合点がいった。
 
「あの日、オレは悟ったんだ。そして絶望した。王になる運命に生まれた以上、自分らしくいてはいけないのだと」
 
 顔を上げ、アレクシス殿下と目を合わせた。赤い瞳に、苦悶の色が滲んでいる。絶望に喘ぐようなのに、それでもこの瞳は、私の目を奪う。
 
「オレは今まで、嘘ばかりついてきた。自分にも周囲にも。本心を隠し、王家が望む王太子の姿ばかりを演じて」
 
 抑えていた声が、大きくなる。殿下は私の手を取り、私はあらがいようもなく両手で握り返した。そうせずにいられなかった。
 
「自分を偽るのが、虚しくなった。王家に媚びるのが、馬鹿馬鹿しくなった。ヴィオラ、お前と出会ったからだ」
 
 私の手を握る殿下の指に、力がこもる。熱が流れ込んでくるようだ。赤い瞳が、強い光をたたえて私をまっすぐ見つめている。
 
「だから、オレは——」
 
 そのときだった。