私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

 
「小鳥の柄が彫り込まれた木箱に、すべての裁縫道具を入れてしまっていたよ。子供の手には重たくて、よく落として慌てたものだ」
 
 懐かしむように呟く殿下の言葉が、胸を貫く。まだ憶えているのだ。棄てられてしまったその裁縫箱のことを。
 
 私の脳裏に、アレクシス殿下の——実際には、見たことのない——可愛らしい裁縫箱が浮かんだ。
 
 小さな鳥が彫られた、子供の使う箱。幼いアレクシス殿下は、ひとつひとつ集めた針や糸やハサミが増えるたびに、嬉しくなったに違いない。
 
 それが無惨に焼き払われたそのときから、殿下はさまざまな本当の想いをその美貌の下に隠し始めたのだろう。
 
 殿下が八つのとき、私は六つ。ちょうど、剣術に目覚めて、男の子に混じって遊んではいくつも怪我をこしらえていた頃だった。
 
 お転婆だ、女子のくせにと陰口を叩く者も多かったあの頃。
 
 騎士になる道を薦めてくれた父と、反対ではあっても決して私の意思を潰そうとはしなかった母。
 
 ちょうど同じ頃、幼いアレクシス殿下は——ほんのささやかな楽しみを、周囲のすべての人から叩き潰されたのだ。
 
「……そのときに戻って……アレクシス殿下。幼い頃のあなたを、抱きしめてあげたい」
 
 滅多なことを言ってはならない、と制する理性より、気持ちの昂りが勝った。私はいつもそうだ。
 
 灰になってしまった宝物の前で、小さな殿下はひとりぼっちで泣いたのだろうか。それとも、泣くことすら許されずに、美しい顔を笑顔で飾ることを覚えたのだろうか。
 
「おい……ヴィオラ、なんでお前が、そんな顔するんだよ」
 
 からかうように言ったアレクシス殿下の声が、困ったように笑う。ああ、この方は、この後に及んでもそんな美しい顔をするのか。
 
 静まり返った店の中で、ひとしずくの涙が私の頬を伝った。