「ありがたい。ちょうど、こんなのを探していた」
アレクシス殿下が手に取ったのは、やや大ぶりな糸切り鋏だった。繊細な細工が、鈍い銀色に煌めいている。
「男の手に合う糸切り鋏は、あまりないからな」
独り言のように言う殿下は、宝物を見つけたような顔をしている。私は、ふと疑問に思った。
「探すのも楽しいのですが……城の職人は、作ってくれないのですか? 殿下の欲しいものなのに」
わざわざ古物店を探して買いに来なくとも、殿下専用の道具をいくらでも作ってもらえるのではないだろうか。
「オレがこうした道具を集めていることは、秘密にしている。城の職人にも、頼むわけにはいかないんだ」
殿下の面差しが、ふっと陰を帯びる。赤い瞳は、遠い思い出を眺めるように霞んだ。
「……燃やされてしまったよ」
「えっ?」
耳を疑う返答に、つい声が出る。
「八つのときだ。使用人からもらった針や糸を集めて、大切に使っていた裁縫箱を持っていた」
八つのときというと、もう十四年前のことか。淡々と語るアレクシス殿下の横顔には、どこか諦めたような気配がある。
「大臣が父上に告げ口し、思いもよらない騒動になった。将来の王となる身で、女子供の遊びに興じるなど実にけしからんと、誰もが眉をひそめた」
だからだ。だからアレクシス殿下は、余った生地を持って帰る——たったそれだけのことを、恥じるように隠れてしなければならなかったのだ。
裁縫や手芸は、確かに淑女のたしなみだ。頭の硬い王侯貴族には、受け入れがたいことだったのかもしれない。
手芸を楽しんでいた、たったそれだけのことなのに。王太子という立場が、グラディエ王国という国が、それを許さなかった。

