私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 城の外に出ると、身分が分からないように、質素な外装にした馬車が用意されていた。
 
「今日は二件、大事な用事がある。ヴィオラ、お前しか連れて行けない場所があるんだ」
 
 馬車の中で、アレクシス殿下は柄にもなく神妙に言った。思わず、居住まいを正す。
 
 掛け布をしてある馬車の窓から漏れる光に、殿下の横顔がぼんやりと照らされていた。狼のような黒髪は、いつもより少し乱れている。
 
 城下町の外れ道まで入り、辺りは静かになってきた。馬車が停まったのは、ひっそりとした店の前だ。
 
 看板も出していない小さな店に入ると、そこはこぢんまりとした雑貨屋だった。狭い店の中に大きな棚がいくつもあり、どれも商品でいっぱいだ。
 
「ここは……?」
 
「いきつけの店だ。たまに、道具を新調しに来る」
 
 アレクシス殿下は、ごちゃごちゃと陳列された雑貨類を端から眺めて、目当てのものを探しているようだった。
 
 調理器具、文具、装備品の手入れ用品などが、なんとなく分けて所狭しと並べられている。
 
「まあ……素晴らしい店ですね」
 
 手近にあったインク壺を手に取って、私は感嘆した。古い品物だが、細部に至るまでなんとも風雅な意匠が施してある。
 
 その横に積まれているトレイは、隣国の名産品。また違う方に束ねて置いてある羊皮紙も面白い。鮮やかな色をつけられているが、おそらく魔力による技だろう。
 
 店内に置いてある品物全てが、名のある職人によって作られているらしい。どれも、味わい深い逸品ばかりだ。店主が、さぞ目利きなのだろう。
 
「いいだろう。知る人ぞ知る名店だ」
 
 アレクシス殿下が、得意げに言う。とっておきの場所を教えてくれたようだ。
 
 殿下はしばらく辺りを眺めてから、あ、と声をあげて近くの棚に歩み寄った。目的の品物を見つけ出したようだった。