私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

 
 あれ以来、私たちは何度もあの森で手合わせをした。
 
 誰もいない森の中で、お互い本気で剣を交えるのはとても楽しい。殿下の剛力と私の魔力がぶつかり合い、血がたぎるのを感じる。
 
「お前だって楽しんでただろ」

 剣を交えるときの殿下は、このくつろいだ姿とはまた印象が違う。まさに狼のような、獰猛な闘争心を剥き出しにするのだ。
 
「まあそりゃ、楽しいですけど」
 
 ああだこうだと言い合いしながら連れ出されるのは、正直楽しい。今もつい声が弾みそうになるが、あまり分かりやすくはしゃぐのも良くないだろう。
 
 訓練場を出て、城の中央にある謁見の間を横切って門に向かう。
 
 玉座の近くにある大穴——〝力の萌芽〟とかいう、大層な名前のついたオブジェ——を、ちらりと横目で見た。
 
 アレクシス殿下がまだ幼い頃、魔力を伴った斬撃で、謁見の間の床に空けたという大きな穴だ。
 
 アレクシス殿下が、稀有な才能を誇る証として残されているという大きな穴。
 
 これに対しても、なんとなく違和感を抱くようになっていた。
 
 確かに王侯貴族や令嬢たちの前では、アレクシス殿下は徹底して「王国きっての剣士であり、それでいて女好きのチャーミングな王太子」の振る舞いを崩さない。
 
 しかし私と話しているときのアレクシス殿下を見ていると、ことさらに力を誇示するような人とは思えないのだ。
 
 きっと、才能や力を見せつけるために空けた穴ではないのだろう。
 
 だとしたら、なぜ……と、時折ふっと疑問がよぎることはあった。