ふわりと草の上に下ろされた私は、顔を上げられなかった。頬も、耳も、首筋まで赤く熱くなっていくのを感じる。
女の子なんだから。騎士として生きてきたこれまでで何度も、不愉快な意味で言われてきた言葉。
その言葉が今、心をとろかすように快く感じてしまうなんて。
「や、やめてください。女の子扱いなんて」
しどろもどろに出てくるのは、あまりにも可愛くない言葉だけだ。
この胸の高鳴りを、知られるわけにはいかない。アレクシス殿下はおそらく、公爵家のセリーヌ嬢との婚約が決まっているのだ。
私などが、王太子殿下を殿方として意識するなど、あってはならない。
「ははっ。なんかお前、可愛いな」
「かわい……っ!?」
ドキンと、心臓が跳ねる。低くあやすような甘い声が、耳朶を撫でるように掠めた。
慌てて身を引き、横目でアレクシス殿下の顔を伺う。いつも他の令嬢に無差別に振り撒いているのとは違う、心底楽しそうな笑みを浮かべている。
「冗談はたいがいにしてください! 私の可愛くないところは、さっき散々お見せしたでしょう?」
ふいっとそっぽを向くと、アレクシス殿下はいっそうおかしそうにクスクス笑った。
「そ……そんなことより、私はお腹が空きました。そろそろ帰って、お昼にしましょう」
これ以上は惑わされたくない。私はわざと、色気のないことを口にした。そうでもしないと、もっと大胆なことを言われてしまいそうだ。
城から少し離れた、静かな森の中。私にとって安らげる場所が、またひとつ増えた日だった。

