私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

 
 かれこれ、小一時間はやり合っていただろうか。
 
「お……お見事です……」
 
「お前こそ……」
 
 演習とはいえ、全力で膝をつかせるつもりの戦いを連続で行ったのだ。さすがにバテて、どちらからともなく草原の上に大の字で横になっていた。
 
 熱くなった体に、ひんやりした草の感触と吹き抜ける風が心地良い。こんなに清々しい疲労感は、久しぶりだ。
 
 アレクシス殿下は、強い。本当に手強かった。圧倒的なパワーもさることながら、恐ろしく守りが堅い。生半可な攻撃は、全て弾き飛ばされてしまった。
 
「いやもう、殿下の守りは本当にしぶといですね……」
 
「お前の攻めは本当にしつこい……」
 
 軽口を叩き合っていると、笑いが込み上げてきた。喉がカラカラに渇いているので、咳き込んでしまう。
 
「大丈夫か」
 
 アレクシス殿下は起き上がって、皮の水筒を渡してくれた。
 
「ありがとうございます」
 
 蓋を取って、直接口をつける。一気に半分ほど飲んでしまった。仮にも伯爵令嬢にあるまじきはしたなさだが、この際まあいいだろう。
 
「いい汗かいたな」
 
 水筒を受け取ったアレクシス殿下が、ためらいなく口をつけて残りの水を飲み干した。
 
 はあっ、と大きく息をついて口元を拭う仕草は、平民の若者となにも変わらない。
 
 思わず、目を逸らしてしまった。殿方と水筒を共有するなんて、未婚の令嬢がすることではない。
 
 突然、今さらになって、アレクシス殿下が殿方であることをはっきりと意識してしまった。