私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 私たちは、隅にあった古い木の長椅子に、並んで腰を下ろした。二人して、焼菓子を摘む。
 
 疲れたように座るアレクシス殿下の傍らに、さっき背後に隠していたものが置いてあった。意外な品物に、思わず声が出る。
 
「あら? それは、残りの生地ですね。殿下もお裁縫をなさるんですか?」
 
「……そ……それは……」
 
 アレクシス殿下は、なぜかバツが悪そうに目を落としている。サロンでの、堂々たる振る舞いとは大違いだ。
 
「私も好きですよ、お裁縫。剣を握っていると、女の針仕事なんて嫌いだろうと思われがちですけど……楽しいですよね」
 
 あまり上手ではないが、私も人並みに裁縫や刺繍は好きだ。仮にも伯爵家の娘なので、一通りの針仕事は仕込まれている。
 
「……ああ。本当は、身の回りの布小物を、自分で作るのが好きなのだ。男の身でこんなこと、許されるはずもないだろうが……」
 
 決死の告白をするような、頼りない声だ。この趣味は、殿下にとっては隠しておきたいことらしい。
 
 それで、さっきは慌てて生地を背後に隠したのか。手に取ると、やや厚手で針通りがよさそうだった。
 
「あら、いいじゃないですか。この生地なら、書簡入れや巾着に良さそうです。小銭入れ……は、アレクシス殿下は使わないか」
 
 意外な一面を知れて、素直に嬉しい。王太子殿下ともなれば、さぞ立派な裁縫道具や生地をたくさん持っているのだろう。
 
「私なら、扇子を入れる巾着を作るかも……殿下、これで何を作るんですか?」
 
「……油壺を置くための、敷物を……」
 
 なるほど。剣の手入れに使う油壺を置いておくためのものか。言われてみれば、殿方の日用品は、自分で作れるものも多い。
 
「ああ、いいですね。この生地にぴったりです」
 
 殿下は、気まずそうに黙ったままだ。しかし、少し嬉しそうに、深く頷いてくれた。
 
 なあんだ。私は拍子抜けして、もうひとつ焼菓子を摘んだ。
 
 完全無欠な女たらしの王子様かと思ったら、ごく普通に、あまり知られたくない趣味なんかを抱えているんじゃないか。