私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

「ど……ど、どうして、何しに来た?」
 
 妙に焦った様子のアレクシス殿下に、目の下に濃いクマがある。声にも、まるで覇気がない。
 
「なにしにって、別に。あんまりにも疲れ切った顔で庭の方へ消えて行かれたので、甘いものでも差し入れようかと思っただけです」
 
 言いながら、清潔なナフキンに包んだ焼菓子を差し出す。
 
「さっきの残りものですけど、召し上がります? 不要なら、私がいただきます。捨ててしまうのはもったいないですから」
 
 サロンが行われている部屋に運び込まれたはいいものの、提供されずにそのまま置いてあった焼菓子を持ってきたのだ。
 
 王宮の良い材料を使っているだろうに、手もつけずに捨てるなんてとんでもない。
 
 アレクシス殿下は、しばらく私を呆気にとられたように見つめていた。なんと言おうか、迷っているようだった。
 
「まあ、殿方は甘いお菓子はお嫌いかもしれませんが。サロンでも、なにも召し上がってませんでしたし」
 
 警備の仕事だからよく見ていたのだが、アレクシス殿下はほとんど何も口にしていなかった。
 
 サロンの間中ずーっと煌びやかな笑みを浮かべて、令嬢たちを褒めそやし、自慢話に驚いて見せ、甘く優しい言葉を囁いて。
 
 令嬢たちの目には、非の打ち所がない憧れの王子様に見えたかもしれない。だが、私の目にはどうも——殿下が、彼女たちを好きなようには見えなかった。
 
 アレクシス殿下が固まっているので、私は手元の焼菓子をひとつ摘んで口に運んだ。サクッと軽い歯触りに、濃厚なバターがふわりと香る。
 
「美味しい。殿下、召し上がらないなら私が独り占めしますよ」
 
 もうひとつ摘んでもぐもぐやっていると、アレクシス殿下はようやく、ふっと笑った。
 
「まったく……ヴィオラ、お前ってやつは」
 
 太くキリッとした眉が、ふにゃりと垂れる。アレクシス殿下は硬く黒い髪を掻き撫で、ほっとしたように笑い続けた。
 
「オレも貰おう。座るか」