私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 サロンは閉会となり、来客たちはみな帰って行った。
 
 セリーヌ嬢が主催するサロンは、初回から成功を収めたようだ。ゲストたちは様々な思惑を抱えながらも、おおむね満足して帰ったらしい。
 
 セリーヌ嬢は結局、付き人たちが止めるほどに自ら片付けをしてから帰って行った。
 
 円卓に広げられた使い残りの生地や糸は、使用人たちが持って行ってしまった。きっと、繕いものにでも使うのだろう。
 
「リーネ。私は退室する。あとは任せた」
 
「はあい」
 
 ひとこと残して、私は広間からほど近い庭に出た。日が傾きかけた空は、柔らかいオレンジ色に染まっている。
 
 さっきアレクシス殿下は、こっちの方向に向かっていた。くたびれ切ってげっそりした顔を、笑顔で繕っていた。
 
 サロンの間中、ほとんどずっと令嬢たちのお世辞に愛想を振り撒き続けていたのだ。それはもう、ぐったり疲れていることだろう。
 
 具合は大丈夫そうか、様子を見ておこう。庭にある生垣の奥の方、人気のないところへ入っていったらしい。
 
 夏ももう終わりそうだ。美しい中庭の空気が、秋の甘い気配が漂い始めていた。
 
 足早に、生垣の中を進む。人気のない緑の奥に、大柄な人物の影が見えてきた。
 
「アレクシス殿下。そんなところで、何をしておいでですか?」
 
「うわあっ!」
 
 声をかけると、その人はすごい勢いで私の方へ振り向いた。同時に、両手に持っているなにかを慌てて背後に隠す。
 
「ヴィオラ……?」
 
 庭の端も端、陽も当たらない場所。そこへ忘れられたように咲いている花の前で、アレクシス殿下はいったい何をしていたのだろう。