夜になった。夕食も湯浴みも済ませ、今日はもうやることはない。
しかし、なんとなくまだ体を動かし足りない気分だ。汗をかかない程度に、城の中を見物して周ることにした。
部屋の外に行くのに、柔らかい素材の青いワンピースを着た。すぽんと着るだけで出歩ける格好になるし、動きやすいので気に入っている。
人気のない広い廊下を歩いていると、ついに王城勤めになったのだなと感慨深くなる。
あてもなく歩いているうちに、思いは今日の昼間の出来事に流れていった。
広い執務室で、アレクシス殿下に私の能力をお見せしたあの時間。
あれが私にとっても思いのほか楽しいひとときになったことに、今でも少し戸惑っていた。
あの場でのアレクシス殿下は、第一印象とあまりにも違っていたのだ。
最初に口説き文句らしき口上を述べられたときは、場合によっちゃ城を引き上げて帰ってやろうかと思っていたくらいなのに。
つらつらと考え事をしながら歩いていると、曲がり角で大きな影がこちらに向かってくるのが見えた。
「あら。ごきげんよう、アレクシス殿下」
「ヴィオラ? 何してる、こんなところで。道に迷ったか? 部屋に案内しようか」
両手に書類と、なにかの包みを持ったアレクシス殿下は、私の姿を見て少し驚いたようだった。
「いえ、夜の散歩をしていただけです。でも、ありがとうございます」
またも、少々面食らう。殿下自ら部屋に案内しようとしてくれるなんて、親切な人だ。
「殿下も、お散歩ですか?」
「いや。ちょっと、城の使用人たちに関してトラブルがあって」

