私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 ひと通りしゃべり倒してから、エルディシア公爵は満足そうに帰って行った。
 
「なんとまあ、感じの悪い」
 
 後ろ姿が見えなくなった途端、ポロッと本音が漏れる。
 
「どうしても、娘さんを殿下の元に嫁がせたいようですね。まったく、セリーヌ嬢は道具ではないというのに……」
 
 ああ、ムズムズする。殿下が公爵の無礼を見逃している以上、私が面と向かって言い返せないのがもどかしい。
 
 モヤモヤしながらアレクシス殿下の方を見遣って、びっくりした。
 
「殿下。アレクシス殿下?」
 
「ん。あ、ああ」
 
 ちょっと心配になるくらい、生気のない顔をしている。端正な顔立ちから色が消え失せたような、心底つまらなさそうな顔。
 
「……ご気分が、優れませんか? ひどいお顔です」
 
「な……ひどい顔?」
 
 アレクシス殿下が、不意をつかれたように聞き返す。
 
 しまった。王太子殿下に向かって、ひどい顔って。誤解を招くというか、無礼というか。
 
「あっ、いえ、あの、失礼いたしました。あまりに退屈そうなお顔をされているので、つい……決して、お顔立ちのことでは」
 
 ふっ、と、アレクシス殿下は息をついた。張り詰めていた場の空気が、ふっと緩む。
 
「お前は、正直だな……オレが愛想を振りまいているのが、バカバカしくなってくるよ」
 
 いつもと違う口調に、ドキッとする。
 
 取り繕わない、本当の顔、本当の姿を、アレクシス殿下がちらりと見せてくれた気がした。
 
 屈託のない微笑みは、とても「女好きの王太子殿下」には見えない。まるで、ただの一人の青年のようだった。