私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 早足で駆け込んだ謁見の間は、見るからにピリピリしていた。衛兵が大勢きちんと並んでいるのに、誰ひとり身動きひとつしない。
 
「おお、待ちくたびれましたぞ。王太子殿下」
 
 用意された安楽椅子に腰を下ろしていた男が、大きな声を張り上げた。
 
 見なくとも分かる。エルディシア公爵だ。ていねいな口調だが、不機嫌を隠せていない。
 
 隣の椅子に座っていたセリーヌ嬢は、すっと立ち上がって上品に淑女の礼をした。機嫌の悪そうな父をちらりと見て、目を伏せる。
 
「エルディシア公爵。セリーヌ嬢。お待たせして悪いね」
 
 アレクシス殿下は、和やかな表情を浮かべながら、一応ていねいに応対している。
 
「さっそくだが、今日はどうした?」
 
 なるほど。公爵閣下と会う予定が入っていたのか。わざわざ謁見の間で落ち合うくらいだから、それなりに重要な用事らしい。
 
 ここグラディア王国で、エルディシア公爵家は絶大な権力を誇っている。
 
 王家に次いで強力な家である以上、アレクシス殿下も軽々しく扱うわけにはいかないのだろう。
 
「王太子殿下に、招待状をお持ちしました」
 
 エルディシア公爵は、軍服の懐中から立派な書簡を取り出した。アレクシス殿下に、うやうやしく渡す。