私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 数分後。私は、大きな執務室の中にいた。
 
 立派だが華美ではない調度品。巨大で重厚な造りの書斎机。紙とインクの匂い。
 
 どことは知らされていないが、間違いない。アレクシス殿下の執務室だ。
 
 あまり使っていなさそうな書斎机には、場違いに重たげなサーベルが立てかけてある。

「殿下。仕事をするはずでは?」

「そうだ」
 
 アレクシス殿下が、真面目な顔で大きく頷く。そしてわずかに身を乗り出して、はっきりと言った。
 
「鎧と、服を脱いで欲しい」
 
「はっ?」
 
 大胆な、というか、無礼な、というか。考えるより前に、言葉がぽんと飛び出す。
 
「帰らせてもらいます」
 
「ああ! いや! 違うんだ、待ってくれ」
 
 くるりと振り向いてドアに向かう私を、アレクシス殿下が必死で引き留める。
 
「申し訳ない。あまりに言葉足らずだった」
 
 向き直ると、アレクシス殿下は本当に焦ったように慌てていた。反応を見る限り、私の裸が見たくて呼んだわけではなさそうだ。
 
「魔力を使って、身体の機能を強化すると言ったな」
 
「はい」
 
「それを、この目でぜひ見てみたいのだ。もちろん、無理にとはいわない」
 
 弁解するように、遠慮がちに言う。その姿のしおらしさに、私は思わず笑い出しそうになった。
 
「年頃の令嬢に対して、とんでもないことを言ってしまった。謝罪する」
 
 しゅんとうなだれてしまったアレクシス殿下は、まるで叱られた少年のようだ。あんなに大きなはずの体が、小さく見える。
 
 ひと目見ただけで、心からの謝意があることはすぐに分かった。そして、文字通り、本当にただ魔力を使う様子を見たかっただけなのだろう。
 
「お顔を上げてください」