私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

王城の訓練場は、呆れるほど広い。城の北側にだだっ広い空間があり、青空の下であらゆる訓練ができる設備が備わっていた。
 
 そこかしこで、兵士や魔術師たちが訓練をしていた。といっても、雰囲気はいたって和やかだ。ちょくちょく散歩に興じている連中さえいる。
 
 アレクシス殿下と初めて会ってから、数日が経過していた。その間、まだ騎士団としての仕事はなにもしていない。
 
 城の研究者や出入りする騎士団たちに一通り挨拶をしなければならなかったし、なにより今は平和な世の中だ。
 
「いやでも、ずーっとこんなヒマだと困りますね。ま、鍛えるのも仕事のうちなんでいいっスけど」
 
 リーネは、重たげな大剣を空中でビシッと止めた。再度振り上げると、クセのある焦茶のショートヘアがぴょんと跳ねる。
 
「そうだな……私も、いつもの鍛錬をするか」
 
 肩をすくめていると、背後からまっすぐこっちに歩んでくる人の気配を感じた。振り返ると、アレクシス殿下その人だ。
 
「可憐な妖精がふたり戯れているのかと思えば、キミたちだったか」

 とろかすような笑みを浮かべて、アレクシス殿下は私たちを見遣って軽口を叩く。妖精って、と、ツッコミたいのはこらえた。
 
「あー……こちら、白百合騎士団の副団長、リーネ・クロイツェルです。リーネ、こちらが王太子殿下にあらせられる」
 
「お、おはようございます……」
 
 振り上げた大剣を下ろすのも忘れて、リーネはポカンとアレクシス殿下を見ている。王族のお目にかかるのは、初めてなのだろう。
 
「堅くならなくてもよい。しかし……キミの麗しい団長は、わたしがさらって行くよ」
 
 アレクシス殿下は、エスコートするように私に手を延べながらもリーネの方を見た。優雅な口ぶりは、まるで歌うようだ。
 
 殿下とは何度か会話したが、いまだにこの歯の浮くようなセリフには慣れない。いちいちツッコミたくなる。
 
「さらわれるのは困ります」
 
 まったく、リーネもポカーンとしているではないか。誘惑するようにクスッと笑う姿は、非の打ち所がない美男子そのものだ。
 
「すまない。ヴィオラ郷、仕事だ。この可愛いお嬢さんを一人残してキミを連れ去るのは忍びないが……ついてきてくれたまえ」
 
「はい」
 
 ついに、王太子殿下じきじきに任務が与えられる——。
 
 アレクシス殿下は、私とリーネの間に走った緊張に気づいたようだ。イタズラっぽくウインクして、こう言い残した。
 
「悪いね。ヴィオラ嬢とわたしを、ふたりきりにしてくれ」