「あら、まあ。変なことをされなかったのなら、いいわ。王太子さま、ヴィオラのことを見初めるかもしれないわね」
「まさか。どうやらもう、婚約する相手は決まっているようだったよ」
エルディシア公爵閣下の娘、セリーヌ嬢。おそらく彼女が、王太子殿下の妃になられるのだろう。まったくお似合いのお二人だ。
当人同士の気持ちはともかく、公爵閣下は娘をなんとしても王家に嫁がせたいのだろう。態度にありありと滲み出ていた。
「どちらにせよ、私が結婚することはないだろう。この身は、剣に捧げると決めたのだから」
騎士として働き、一団の長として生きる以上、よその家に入って夫である当主を支える余裕はない。
他の令嬢のように、素敵な夫と暖かい家庭を築く——そんな生活に、憧れないわけではない。
いや、むしろ——家に入り、夫や家族のために尽くして生きる。これもまた立派な仕事であり、女の誇りであると思う。
だが、いまや白百合騎士団は、王家にも認められる団になりつつあるのだ。よその家に入るわけにはいかない。
家庭を持つことにも、人並みに心は惹かれてはいた。しかし私は——騎士として生きる道を選んだ。
この決意は、何があっても揺らぐことはないだろう。
「ほどほどに。無理しないでね」
私の子供の頃からの無鉄砲をよく知るマリエルは、屈託なく笑って言う。
明日からいよいよ、王城での仕事が始まる。私は残ったハーブティーを飲み干し、マリエルに別れを告げて部屋へと戻った。
次の日、私はさっそくアレクシス王太子殿下の〝洗礼〟を受けることになる。

