私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


「そのようですな。先日も、未婚の令嬢とお会いになったとか」
 
 公爵閣下がわざとらしく吊り上げている口の端が、ピクリと震える。イラだちをおさえているようだ。
 
「困りますぞ。王太子殿下には、これをもらって頂かなければなりませんのに」
 
 公爵閣下は、娘の方をぐいと顎で指し示した。その動作に、王太子殿下がかすかに眉をひそめる。
 
 なるほど——この人は、娘を王太子殿下のもとへ嫁入りさせたいらしい。
 
 この時点で、私は目に見えてムスッとしていたに違いない。実の娘を「これ」と呼ばわりするなんて、あんまりだ。
 
「……私ごときには、もったいない令嬢ではないか」

 王太子殿下が、いたわるように言う。セリーヌ嬢はなにか言おうとしたが、公爵閣下が言葉を被せた。

「まあ、今日のところは失礼いたします。また、近々お会いするでしょう」
 
「……それでは、ごきげんよう」
 
 もったいぶった礼を残して、公爵閣下が去っていく。セリーヌ嬢も、身を縮めながら父のあとをついていった。
 
 あとには少し硬い表情を見せる王太子殿下と、直立不動の衛兵たち、そして私が残された。
 
「なんですか、あの人」
 
 公爵閣下の後ろ姿をポカンとして見送ってから、私はついぽろっと本音を漏らした。
 
「実の娘に対してあの扱いは、ひどい。王太子殿下に対しても、慇懃無礼というか……目が笑っていませんでしたね」
 
 表面上は礼儀正しかったが、節々に意地の悪さが滲み出るようだった。
 
 私に対する、横柄な態度はまあいい。娘を自分の付属品のように扱う、あの振る舞いが心底いけすかないと思った。
 
「……そう思うか」