私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 エルディシア公爵の鋭い眼光が、一瞬だけ私の身に向けられた。
 
「ブライアント家の娘? ふうん」
 
 そしてすぐに、何も見なかったかのように王太子殿下に向き直る。なんて態度だ。思わず、ムッとしてしまう。
 
「忙しい公爵が、どんな用で城に来たのだ?」
 
 王太子殿下が、さりげなく話を振る。穏やかな声だが、よそよそしさを隠し切れていない。
 
「なに、野暮用で」
 
 公爵閣下はあいまいに答え、一歩下がって立っている令嬢をじろりと睨んだ。
 
「こら、挨拶を」
 
 困ったように様子を見ていた令嬢は、顔を上げて優雅に淑女の礼をした。
 
 蜜のような金髪が豊かに波打ち、滑らかな肌は陶磁器のよう。品のある唇は林檎のように赤い。
 
「セリーヌ・エルディシアでございます。お目にかかれて光栄ですわ、アレクシス殿下」
 
 小鳥がさえずるような、可憐な声と口ぶりだ。控えめな仕草も、思慮深くも優しいまなざしも、すべてが可愛らしい。
 
「お久しぶりですね。相変わらずお美しい」
 
 王太子殿下が、優しく声をかける。さすがに、父親である公爵閣下の前で、口説くような素振りは見せないらしい。
 
「ありがとうございます。お元気そうで、なによりですわ」
 
 セリーヌ嬢は恥ずかしそうに目を伏せて、愛らしく言った。女の私からしても、なんて可愛らしい令嬢だろうと思う。
 
 彼女は私の方を向いて、なにか言おうと口を開きかけた。挨拶しようとしてくれたのだろう。
 
「ほんとうに、久しいですな。殿下ときたら、我がエルディシア家の夜会にも、いらっしゃらないのですから」
 
 そこへねじ込むように、公爵閣下が割って入る。言い方に、そこはかとなくイヤミな響きがあった。
 
 娘であるセリーヌ嬢は、びくっとして黙ってしまった。大きな声を発する父に、怯えているようですらあった。
 
 私に、申し訳なさそうな視線を送ってくれる。エルディシア公爵だけが、ずけずけと話を続けた。
 
「もう何度も招待状をお出ししましたのに……そんなに、我が家においでになるのはお嫌ですか?」
 
 いちいち、チクリと刺さないと気が済まないらしい。アレクシス殿下はまともに取り合わず、さらっと流した。
 
「夜会は苦手でね。私のような放蕩者は、むしろ女性と一対一で過ごすディナーの方が好みだ」
 
 おいおい。大勢がいる夜会は苦手だけど、女性と一対一で過ごすディナーは好き?
 
 本当に、私にしたように誰にでも花束やドレスなんかを贈っているのだろうか。そんなの、ホンモノの女好きではないか。