私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


〝力の萌芽〟が、ない。柵はなくなり、穴は修繕されている。
 
 私は驚いて、ちらりとアレクシスを見た。優しい視線を返してくれる彼に、目線で合図する。
 
「……塞いだんですね」
 
「ああ」
 
 長年、王太子の才能の象徴として、謁見の間に飾られていた〝力の萌芽〟。
 
 その真相は、幼いアレクシスがやり場のない悲しみを言葉で言い表せなかった傷跡だった。
 
 それさえも、「幼くして類まれな才能を発揮した記念碑」として利用されてきた。
 
 あれがついに、修繕されることになったのだ。
 
「よかったです。あんなところに穴があったら、危ないと思っていましたから」
 
「お前は、初めからそう言っていたな」
 
 アレクシスが忍び笑いをしながら、懐かしそうに言う。
 
 そうだ。初めて会ったあの日も、なぜこの穴を塞がないのかと聞いて、宰相に叱られたんだった。
 
 これでいい。これがいい。もう、アレクシスの幼い日の悲しみを、王家のために利用されなくて済む。
 
「そして本日、もうひとつの慶事を申し上げます」