私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

 謁見の間の向こう側から、大柄な男がずんずんと歩いてくる。その後ろに、ほっそりとした女性も付き従っていた。
 
「これはこれはアレクシス王太子殿下。いったい何事ですかな?」
 
 重そうな軍服に身を包み、いかめしい顔をした壮年の男性だ。髪は短く刈り上げ、黒い髭をたくわえている。
 
 見上げるような長身の王太子殿下の前に立っても、負けないほどの威圧感。
 
 私は、この姿を知っていた。エドガー・エルディシア公爵閣下だ。
 
 エルディシア家は名門の軍人家系で、歴代の英雄や将軍を大勢輩出している。
 
 建国戦争の際に活躍した経緯から、エルディシア公爵家はいまだに、ヴァルスタイン王家に次ぐ権力を誇っている。
 
 騎士で身を立てた者として、折にふれて目にする機会はあった。個人的な会話はしたことがないが。
 
 王太子殿下はというと、貼り付けたような微笑を浮かべている。さっきまでの、楽しげでエネルギーに満ちた顔つきはどこへやらだ。
 
「なんでもない。今日から赴任してもらった騎士、ヴィオラ郷の腕前を見たかっただけだ」
 
 王太子殿下が、手のひらで私の方を指し示してくれる。私は、落ちついて騎士の礼を行った。
 
「ヴィオラ・ブライアントと申します。以後、お見知りおきください、公爵閣下」