私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 リーネはしゅんとうなだれて、すがるような目で私を見つめた。少女の頃から変わらない顔つきに、思わず笑ってしまう。
 
「いやいや、そんなことはない。演習や剣術大会もあるし、非常時には私も隊を指揮するだろうしね」
 
 そう言った途端、リーネの表情がぱあっと明るくなる。本当に、思っていることがすぐに顔に出る友人だ。
 
「なあんだ! じゃあいいや。それじゃ、アタシも頑張るっス!」
 
 それだけ言い残すと、リーネはつむじ風のようにさっさと去っていった。
 
 もう少しだけ、ここでぼーっとしていよう。傾きかけた陽が当たるベンチで、青く澄み渡った空を見上げる。
 
 白百合騎士団はグラディア王国で初の王属女騎士団となった。私はその創設者として、王家の威光の一部にもなる。
 
 思っていた形とは違うが、騎士としての生き方を私は選べた。それも、家庭に入って夫を支える道も捨てずに。
 
 ただひとつ、心残りがある。セリーヌ嬢の今後を思うと、溜め息が出た。
 
 物思いに耽っていると、ふわりと良い香りが鼻先をかすめた。
 
「お疲れさま、ヴィオラ。お茶を持ってきたわ」
 
「マリエル。ありがとう」
 
 掃除婦姿のマリエルが、木製のゴブレットに注がれた冷たいお茶を渡してくれた。
 
 黙ってゴブレットを傾ける私の浮かない顔を見て、マリエルはひっそりと言った。
 
「セリーヌお嬢さま、お引っ越しされるんですってね。辺境の地に」