「裁縫箱です。小さいので、最低限の道具しか入りませんが」
以前から、私は決めていたのだ。いつかアレクシスに、裁縫箱を贈ろうと。
「いただいた休みの間に、あちこち探し回ったんです。結局、あのとき連れて行ってもらった雑貨屋で、これに巡り合いました」
木製の、シンプルな小箱だ。ほどよい重みがあり、滑らかに磨かれて暖かい手触りが心地良い。
雑貨屋で出会った瞬間、これが良いと思ったのだ。そこまで高価ではないが、素材も作りもしっかりしたとても良い品だ。
幼い頃に燃やされてしまった、アレクシスの裁縫箱と道具一式の代わりにはならないだろう。
あのときの傷は、あのときのもの。埋められるとは思わないが、せめて私の手で新しく贈り物をしたい。
「アレクシス。私は、あなたが好きなことを好きなように楽しむ姿を見たい。できればもう誰からも隠れずに」
これからアレクシスは、この国の王となる。これからも、世間が望む姿を演じ続ける必要はあるだろう。残念なことに。
「少なくとも、私の前では隠さずにいられるように……そんな妻でありたいと、思っています」
これまではただひとり、仮面を被り続けるしかなかったアレクシス。心の奥底に、宝物を燃やされてしまったあの日の幼子を閉じ込めて。
「あなたが素顔を晒け出せる、たったひとりになりたいのです」
もうこの人を、ひとりぼっちにはしない。
決意と共に彼の横顔を見上げる。アレクシスは、両手に収まるくらいの箱をしばらく、じっと見つめていた。
どこか懐かしそうな、慈しむような優しい顔——そして、隣に座る私を、黙ったままぎゅっと抱き締めてくれた。
肩に落ちる熱い涙が、想いの全てを物語っていた。

