私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


「くそ! しまった! 油断した!」
 
 振り返った殿下は、まるで打ち合いに負けた子供のように拳を握りしめた。悔しさが剥き出しだ。
 
「……えっ?」
 
 びっくりして、思わず固まってしまう。さっきまでの、〝チャーミングな王子様〟のような振る舞いはどうしたのか。
 
 今のアレクシス殿下はまるで、草っ原での喧嘩ごっこを楽しむ少年だ。歯軋りして悔しがっているが、瞳は輝いている。
 
「しかし、ああ……だが、素晴らしい!」
 
 殿下が一歩近づいて、興味深そうに私の全身を観察する。
 
「とても素早いし、パワーもなかなかのものだ……魔力で身体強化しているのだな?」
 
「はい。生身の体を鍛える必要はありますが、魔力で筋力や瞬発力を補っています」
 
 私の能力に、よほど感動したらしい。もっと知りたいと、顔にありありと書いてある。
 
「なるほど……魔力を持つ者は多いが、ここまで鍛錬している者はそういない。誰に習った?」
 
「父です。しかし、剣技と魔力を組み合わせる鍛錬は、私が勝手に始めました」
 
「それはすごいな。白百合騎士団の者全員が、この鍛錬をしているのか?」
 
「ええ。程度の差はありますが、みな魔力を活用しています」
 
 次々と質問を繰り出すアレクシス殿下に対して、私は正直少し戸惑っていた。
 
 男性が——それも、王太子であり剣士でもあるアレクシス殿下が。こんなにも率直に、強い関心を示してくれるとは思わなかったのだ。
 
 少し、調子が狂う。なんならこらしめてやろうと思っていたのに、正直いってこの反応は私にとって好ましい。
 
「やはり、お前が一番優れた使い手なのか?」
 
「はい」
 
 謙遜せずに胸を張ると、アレクシス殿下はニヤリと笑った。
 
「そうか。白百合騎士団を呼んだのは、正解だったようだ」
 
 戸惑いながらも、少し安心する。殿下は私のことを、ちゃんと騎士として尊重してくれそうだ。
 
 アレクシス殿下が、もっと何か聞きたげに口を開いた瞬間だった。
 
「おい! 何を騒いでいる!」
 
 轟くような怒号が響いて、衛兵たちは一瞬でしーんと静まり返った。