私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


「参ります」
 
 全身の力を抜き、精神を集中させる。体内の魔力を呼び起こして身にまとい、私は一気に前方へと駆け出した。
 
 ゴッ!
 
 するりと間合いに入り込んだ私の警棒を、王太子殿下はあっさりと受け止めた。
 
 受けられただけなのに、腕が痺れるほどの頑強さだ。王太子殿下の体が、急に巨大に見える。強者と相対するときの緊張に、鳥肌が立った。
 
(ダメだ。真正面から向かっても、勝てない)
 
 体内で練った魔力を、手足に塗り重ねるようにまとう。魔力による、筋力と瞬発力の底上げ。強化しなければ、吹っ飛ばされてしまう。
 
 コッ、コツッ、コンッ。
 
 警棒を滑らせ、半歩斜めに避け、すれ違いざまに蓮撃を喰らわせる。隙を伺いつつ、素早く殿下の死角に逃げ込んだ。
 
 とにかく守りが堅い。隙がない。恵まれた体格も、鍛えられた筋肉も、磨かれた剣技も見て取れた。なるほど確かに、アレクシス殿下も只者ではない。
 
「面白い!」
 
 向き直った王太子殿下は、さっきとはまるで違う表情で私に迫ってきた。
 
 赤赤と燃えるように輝く目。興奮したように大きく開いた口は、狩りをする獣を思わせる。黒い髪を振り乱し、殿下は一直線に警棒を振り下ろした。
 
 ひゅうんっ。
 
 空を裂く音が、耳元すれすれで唸りを上げる。とっさに前転してなんとか避け、私は殿下の膝裏をまっすぐに殴打した。
 
「っ、と……!」
 
 殿下が、焦ったように吐息の混じった声をあげる。
 
 堅い! 普通なら、膝から崩れ落ちているであろう一撃をお見舞いしたのに、殿下の脚はわずかに揺れただけだ。
 
 即刻身を翻して、飛びつくように襲いかかり——殿下の警棒を、下方から正確に突いた。
 
 カランッ。
 
 乾いた音を立てて落ちる、殿下の警棒。急激に音が戻ってきた世界に、衛兵たちの歓声が響いた。