「怪我はないな?」
「はい」
頷いた私を見届けた殿下は、まだ少し強張った顔をしている。私を安心させるように微笑んだあと、セリーヌ嬢に向き合った。
「すまない、セリーヌ嬢。あなたの目の前で、お父上にあんなことはしたくなかった」
「いいえ。これでよかったのですわ」
セリーヌ嬢はほっと長い息をつき、しゃんと背筋を伸ばしてアレクシス殿下と向かい合った。
「ありがとうございます。父を、止めてくださって……」
抑えているがはっきりした声で、セリーヌ嬢が呟く。
謁見の間は、しばらくの間ガヤガヤと騒がしい声に満ちていた。王と王妃はまごつきながらもどこか他人事のようだし、宰相と大臣はおろおろするしかない。
騒然としている広い謁見の間には、ふたつの穴が残されていた。
ひとつは玉座のそばに空いた、〝力の萌芽〟。幼い日のアレクシス殿下の、悲しい叫びの証明。
ふたつは、今しがた空けられた浅く広い衝撃痕のような穴。アレクシス殿下が、愛する人と——健気にも勇気を出した女性を守ろうとした証だった。

