私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 エルディシア公爵の青ざめていた顔が、憤怒のあまり真っ赤に変わる。悪魔のような凄まじい形相で娘を睨みつけたあと、血走った目を私に向けた。
 
「貴様が……貴様が、よからぬことを吹き込んだのだろう!」
 
 公爵の怒りの矛先は、まっすぐに私に向けられた。見上げるような巨体が、ずいっと私の方を向く。
 
「貴様のせいだ! セリーヌが反抗するようそそのかし、王太子殿下をたぶらかした罪人は、お前だ!」
 
 喚きながら、公爵が私に掴みかかろうとする——よりも早く、私の目の前に大きな影がさっとよぎった。
 
 悲鳴混じりのどよめきと、石の床が砕ける音がする。
 
 アレクシス殿下の魔力を伴った剛腕がエルディシア公爵の胸を捕え、そのまま仰向けに床へと叩きつけられた。
 
「一線を超えたな」
 
 殿下は床に伸びた公爵の巨大を見下ろしながら、静かな声で言った。剣のように掲げた手からは、まだ魔力の黒いエネルギーが迸っている。
 
「よくも、オレのヴィオラに」
 
 静かな呟きに、ありったけの怒りが滲み出ていた。
 
 その大柄な背中だけでも、アレクシス殿下の怒りを推し量るのには十分な迫力があった。冷たく、ひりついた、絶対に許しはしないと無言で告げるような背中。
 
 殿下はさっと手を上げ、衛兵たちに公爵を捕縛するよう命じた。半ば意識を失った公爵は、呻きながら衛兵たちに運ばれていく。
 
 立ち上がったアレクシス殿下は私の方を振り返り、ふっと表情を緩めた。彼の顔に残った冷たい怒りの残滓に、背筋がひやりとする。