私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


「はい」
 
 忘れるはずがない。
 
 愛している。オレの妻になってくれると、言ってくれ——夢のような……いや、夢にも見なかったような言葉が、まっすぐに私に向けられて。
 
 それは呪いの言葉だったかもしれない。戒めの呪文だったかもしれない。
 
 私は剣に身を捧げた女だ。王が自らで築いた国を守るように、私も自らが築いた女の騎士団を守って生きようと、もう決めていたのだ。
 
 結婚すれば——家に入れば、もうそれは叶わなくなる。妻として、母として、家の繁栄を陰から支える宿命を背負うこととなる。それが、女の生き方だ。
 
 私はもう、その生き方から降りたはずだった。家に入らず、夫を支えず、自分で自分の身を立てて、騎士団の主人として生きる覚悟を決めていた。
 
 それでも。それでも、願ってしまった。この人と一緒に生きていきたいと。
 
「私は……」
 
 続けて、なんと言おうとしたのかは自分でも分からない。
 
 嬉しい? どうしたらいいか分からない? 困惑している? 驚いた? 幸せ?
 
 どれでもあり、どれでも足りない。今まで感じたことをなんでもするりと口にしてきたのに、今初めて、言い表せない気持ちに満たされている。
 
 分かるのは、私がこの人を愛してしまったということだけだ。
 
「いい。返事は、あとで聞かせてほしい」
 
 アレクシス殿下はそっと私の唇に指を添え、そっと言った。
 
 私よりずっと背の高い殿下が屈むようにして私に顔を寄せる。間近に見て初めて、彼の表情が分かった。
 
 愛おしいものを、大切なものを愛でるような、この上なく穏やかな微笑み。
 
 伝えたい気持ちが、どっと溢れ出す。なのに私は、声ひとつあげられなくて。
 
 静かな月明かりの下、ざわめく木擦れの中で。私はただ、泣きそうになっていた。