「セリーヌ嬢に恥をかかせるのだけは、心苦しい。いくら父の罪によるものとはいえ、彼女と婚約は出来ないと本人の前で宣言するのは……」
「それは、私も気が重いです」
セリーヌ嬢の気持ちを考えると、溜め息が出る。もともと彼女が望んだ結婚ではなかったのが、せめてもの救いだろう。
「アレクシス殿下は、セリーヌ嬢のことをどう思っておいでですか?」
「素晴らしい女性だ。美しくて、心が綺麗で、趣味が良くて。立場が立場なら、友人になりたかったよ。おい、なにを笑ってる?」
「だって、セリーヌ嬢と同じことをおっしゃるから……」
セリーヌ嬢も、アレクシス殿下とは友達になれたらいいのにと呟いていた。
「セリーヌ嬢は、非の打ち所がない淑女だ。だがオレにとって、可愛くて可愛くてならないのはお前なんだ」
「かわい……も、もう。サラッと恥ずかしいことを言わないでください」
顔が熱くなるのを感じながら怒ったフリをすると、殿下がクスクス笑うのが聞こえる。
「そ、そうそう。証拠品は、殿下が保管されますか?」
「ああ」
殿下が頷いて、私から巾着を受け取ろうとする。大きな手が、そっと私の手に触れた。
「あ……」
剣を握り、皮膚の硬くなったアレクシス殿下の手。そこから、体温が直接伝わってくる。
反射的にアレクシス殿下の顔を見上げると、彼もまた私を見詰めていた。明るい月光を背負って、細かい表情は見えない。
「ヴィオラ」
思わず零れ出たような呼び声に、ぴくりと身を震わせてしまう。ただ、名を呼ばれただけなのに。妙に真面目に、思い詰めたような声で言うから。
「昼間言ったことを、覚えているか」
怖々と覗き込むような、静かな問い。やっぱり、殿下の表情は読めない。ざあっ、と、夜の風が木々を撫でていった。

