「畏れながら、王太子殿下。そのような理由で、あなたの元に就くことはできません」
衛兵たちがざわめく。私は、胸のうちに湧く静かな怒りを抑えていた。
「私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の〝お戯れ〟にはお応え出来ません」
首筋が、熱くなっていく。怖い。激昂され、追い出されるかもしれない。でも、引き下がるわけにはいかない。
短い沈黙のあと、聞こえてきた言葉は意外なものだった。
「すまない。今のは、わたしの失言だった」
アレクシス王太子殿下は、ていねいに頭を下げた。
一介の騎士——それも、赴任したばかり——の私に、王太子殿下が頭を下げる。異例な事態に、衛兵たちが一気にざわめき立つ。
「女性だからというだけで、白百合騎士団を迎えたわけではない。さっきのは、言葉のあやだと思ってくれ」
「では、なぜ……」
言いかけた私の目の前で、王太子殿下は近くにいた衛兵のそばに歩み寄った。
「それは、わたしに勝ったら教えよう」
衛兵二人が携えていた警棒を受け取り、王太子殿下は私の方に向き直った。
投げて寄越された警棒をつかむ。ふだん私が使うサーベルより短く軽いが、手合わせにはちょうどいいだろう。
面白い。望むところだ。
女好きの王太子殿下に、私が一筋縄ではいかないところを見せてやる。これまでに私を女だからと舐めてかかった男たちは、みな痛い目を見ることになった。
「ここで、よろしいので?」
訓練場でもなんでもない、玉座の間のど真ん中だ。調度品を壊す恐れはないにしろ、手合わせをするような場所ではない。
「誇り高い女性だ。腕前も、ぜひ見てみたい」
びしり、と、王太子殿下が警棒を前方に突き立てる。さっきまで私を甘く見詰めていた瞳が、突然するどい眼光を帯びた。

