私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません


 彼女は少し困ったように、眉を下げた。
 
「尊敬していますわ。素敵な方なのも知っています。でも、男性として愛しているかというと……」
 
 セリーヌ嬢は言葉を濁しながらも、控えめに首を横に振った。
 
「お友達になれたら、どんなにいいかと思います。殿下とお話しするのは、とても楽しいんですの」
 
 確かに、おっとりした淑女であるセリーヌ嬢からすると、アレクシス殿下は恋心を抱く相手にはならないかもしれない。
 
 こんな風に感じていいものか分からないが、私は心の底からほっとしてしまった。
 
 アレクシス殿下の心は間違いなく私に向いていて、私もまた、恥じることなく想いを寄せることが出来る。
 
 セリーヌ嬢は、少し考え込むように小さな唇をちょこんと尖らせた。こっそりと言う。
 
「嬉しいわ。ヴィオラさまと、恋のおはなしが出来るなんて」

 恋の話、と聞いて、引いてきていた顔の熱さが一気にぶり返してくる。
 
「ヴィオラさまは、アレクシス殿下のどんなところがお好きなんですの?」
 
「ええっ、そ、そんな私は、殿下を好きだなんて一言も……」
 
「お顔に書いてありましてよ」
 
「なっ……」
 
 宝石のような目をぱちぱちと瞬きながら、セリーヌ嬢はわずかに身を乗り出してくる。
 
 アレクシス殿下の、好きなところ。
 
 会話するときの、気の抜けた横顔。疲れているときの、どこか私に甘えるような怠そうな声。警棒を握って相対するするときの、獣のように強く鋭い眼光。私と顔を合わせたときの、嬉しそうな微笑み。
 
 幸せな瞬間はいくつも思い出せるのに、どこが好きかと問われると、ひとつも言葉にして言い表せない。
 
 こんなことは、初めてだ。いつもいつも、思ったことはポンと口から出てしまうから、困っていたのに。
 
「わ……分かりません。私にとっても、初めての恋のようです……」
 
「まあ……まあ!」
 
 セリーヌ嬢がほっそりした手を口元に当て、はしゃいだように笑う。ずっと一流の淑女の姿をしていた彼女が、今は恋の話に身を乗り出す少女のようだ。
 
 むず痒いような、浮き立つような、忙しなくも暖かい気持ち。初めての恋。恋とは、こんなに人を強くするものだったのか。