研究室を出て、迷路のような廊下を戻る。
ロビーのソファでは、琥珀が手持ち無沙汰そうにスマホをいじっていた。
私に気づくと、彼はパッと顔を上げた。
「お、早かったじゃん。大丈夫だった?」
立ち上がり、ひょいと顔を覗き込んでくる。その距離に思わず後ずさりそうになる。
「なんか顔色悪くない? 教授に変なこと言われた?」
「ううん、大丈夫だよ。教授さん…‥ちょっと怖いけど、良い人だね」
「……え、良い人?」
一瞬きょとんとして、それから声を上げて笑った。
「あはは、胡桃って面白いね。あの人、俺には毎回出てけって言うのに。」
「そうなの?」
「なんか俺には当たり強いんだよねーあの人。なんでだろ」
琥珀は特に気にしてない風に笑っていたが、その理由を深く考える気もなさそうだった。
「ま、いっか。それよりさ、もう帰る?」
大学の出口に向かって歩きながら、ちらりと振り返る。
「せっかく来たんだし、学食でなんか食べてかない? ここのカレー、意外とうまいんだけど。」
琥珀にそう言われて、タイミングを見計らったかのようにお腹から音が鳴った。
「……今の、聞かなかったことにした方がいいやつ?」
にやにやが隠せていない。口元を手で押さえているが、肩が震えている。
「……も、もう…」
「いやー、体は正直だね。行こ行こ、奢るよ。」
断る間もなく、琥珀に手首を引かれて歩き出す。

