教授の目の下の隈の理由が、なんとなく分かった気がした。
ページを捲れば、細かな文字と複雑な図表がページを埋め尽くしている。
中には目を背けたくなるような、暴走の傷跡を写したスケッチもあった。
教授身を乗り出して、私の目を覗き込む。
「彼は…感情を表に出さんタイプだろう。ああいう奴が一番危ないんだ。溜め込んで、限界を超えて、ある日突然来る。」
廊下から学生たちが笑いながら通り過ぎる声が聞こえた。
この部屋の中の空気とは、まるで別世界だった。
「……叶兎くんのこと、よく知ってるんですね」
「……まあな。……悪い事は言わねぇから、あまり吸血鬼に入れ込みすぎるんじゃねぇぞ」
その目には一瞬だけ、研究者とは別の何かが過ぎったように見えた。
ノートのページが風で微かにめくれる。第三冊目の「暴走」の項に、殴り書きで「予防は不可能」と書かれていた。
「……そろそろ、俺も仕事がある。今日はこれぐらいにしておけ」
壁の時計を見ると三十分以上が経っていた。
「ノートは持ち出し禁止だ。……ただし、メモを取るくらいは好きにしろ。次に来るときは、そこの学生証を事務に見せて通行証を発行してもらえ。」
ぶっきらぼうに言いながらも、教授の口調は最初より幾分か角が取れていた。
「……ありがとうございます、!」
頭を下げると、教授はふんと鼻を鳴らしてもう机に向かっていた。返事の代わりらしい。

