「お前さん、最近契約したばかりだろう。赤羽叶兎くんと」
唐突に紡がれた彼の名前に心臓が跳ねる。
教授は引き出しから一枚の写真を取り出した。
「この世界で吸血鬼トップの後継と契約するということがどういう意味か、分かっているのか。」
「……どういう、意味か…?」
「お前の存在そのものが政治のカードになる。」
「…!」
差し出された写真には叶兎くんの姿が映っていた。望遠で撮られたものらしく、画質は粗い。
「俺が吸血鬼を嫌う理由は単純だ──あいつらは化け物だよ、人間より遥かに長く生きて、能力を振り回して。そんな連中と命を繋ぐなんて、正気の沙汰じゃない。」
教授の声には、隠しようのない嫌悪と、それ以上に深い「何か」が滲んでいた。
「……まあいい。聞きたいことがあるんだろう。」
彼は背もたれに身体を預け、腕を組んだ。
刺々しい空気が少しだけ和らぎ、研究者としての顔が覗く。
「能力暴走のメカニズム、能力の制御方法。知りたいのはそのあたりか?」
机の端に積まれたメモの束を、指先でぱらぱらとめくった。
「全部は教えられん。閲覧制限の壁がある。……だが、俺の個人的な研究ノートなら見せられる。十五年かけて集めたやつだ。」
分厚いリングノートが三冊、机の下から引きずり出された。表紙には几帳面な字で年号と日付が振られている。
「……これ、全部自分で?!」
「当たり前だ。政府が情報を出さないなら自分で集めるしかないだろう。」

