「座れ。時間は無駄にしたくない。」
椅子を顎で示して、自分は資料の山を漁り始めた。
「純混血の契約、だったか。……正直に言おう、あれは学術的にはまだ未解明の領域が多い。」
教授が引っ張り出したのは、色褪せた古い論文のコピーだった。
黄ばんだ紙に赤い文字で「閲覧制限」の印が押されている。
「教授、私のこと…ご存じなんですか?それに、契約のことまで…」
「知らない方がおかしい。あの赤羽叶兎の隣にいる女だぞ。おおかた、自分に刻まれた『契約』について知りたいんだろう?」
私の心を見透かすような鋭い目が、眼鏡の奥で光る。
「契約に関する資料は、政府によって厳重に規制されている。一般の学生が目にすることなどまず不可能だ。……なぜか、わかるか?」
……わからない。
私が黙り込むと、教授は吐き捨てるように言った。
「便利だからだよ。吸血鬼を制御できる力。それが人間の手に渡れば、パワーバランスが崩れる。」
教授は論文を机に滑らせ、ある一節を指で叩いた。
「契約者は吸血鬼に対して絶対的優位性を有し、能力の行使を強制できる」
その下には赤ペンで大きく「危険」と書き殴られている。
喉の奥が引き締まる。
この力がもし、悪意ある者の手に渡れば。もし私が、吸血鬼の敵だったら……。
「だがな、お前さんも身に染みているだろう。この力には等しく代償がある。溺れるな、使いすぎるべきではない」
言教授は言葉を切り、じっと私の目を射抜いた。
研究室に響くのは、古びた時計が刻む規則的な秒針の音だけ。

